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鉄球は四方八方にばらまかれ、壁に当たって跳ね返る。それが何度も何度も繰り返されることによって、鉄球はいつの間にかとてつもない速さで敵を襲う凶器となっていた。
自分の周りを囲む鉄球の技に、ネビアの苛立ちが増していく。しかし、ネビアには一発も当たることはなかった。
いくら近距離が苦手ではあっても、今のカリュアドスは神喰らいによって、能力がかなり向上していた。
だからこそ、鉄扇を封じられたこと以外は問題無しと判断していた。
しかし、カリュアドスの特殊能力は支配下の鉄を操る能力だった。
今まで通り跳ねていた鉄球が後ろから近付いてきていた。しかし、上からも鉄球が来ており、他の鉄球の回避を考えるに、またもやギリギリの回避を要求されることとなる。
タイミングを完全にはかっていたネビアは、後方から迫る鉄球を問題視しなかった。
そんな彼の体が貫かれる。
背中から細い剣で刺されたかのような痛み、下を向けば剣の切っ先が自分の体を貫いていた。
当然、他の避けきれなかった鉄球がネビアを襲い、彼の体から赤い血が地面へと滴り落ちる。
「……なるほど……これが【鉄人】の効果……少々甘く見すぎていたようだ……」
膝を折るネビア。彼の口からは血が滴り落ちており、その攻撃が相当効いたのだと見ただけでわかる。
そして、カリュアドスが追い打ちをかけるべく次の攻撃へ移ろうとしたその時だった。
「ねぇぇぇぇぇまだ終わんないの~?」
少女のものと思われる声が部屋の中に響いた。
そして、相手の状態を見る為に空けた鉄の壁の穴から、一人の少女が見えた。
うさぎのぬいぐるみを腕に抱いた幼い見た目の少女。
齢は十代前半くらいに見えた。
ここの眷族達とは雰囲気が全く異なる彼女は、紫色の瞳に、白い銀髪という見た目だった。
おとなしそうな雰囲気を醸し出しているが、ネビアに話しかけた以上、敵であることに違いはなかった。
しかし、妙なことに、彼女からはネビアの時に感じた神喰らい特有のオーラが見受けられなかった。
(……もしや、神喰らいはしていないのでしょうか?)
ネビアと何かを話しているのを遠目で見ながら、カリュアドスはそう判断した。
「しょうがないな~! 使えないおじさんの代わりに、このミナちゃんが悪い奴をやっつけちゃおう~!」
すると、彼女は懐から装飾のこった笛を1本取り出した。




