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「……体が麻痺してうまく動かない……先程から造った楯が霧化していくのを見ると……もはや間違いは無いようですね……となると、さすがに私一人の手では守りきれませんね……」
カリュアドスが冷静に状況を分析していると、急にネビアが含み笑いを始めた。
「……ようやく諦めたようですね! そう! いくら無敗だなんだと言われていようと、女神様と一心同体になった私には勝てないのですよ!」
声を高らかにして笑うネビア。
彼は気持ちよさそうにそう言うと、右手に持った鉄扇を振るった。
すると、霧の刃が発生し、カリュアドスに容赦なく襲いかかる。しかし、カリュアドスの目は死んでいなかった。
「何を勘違いしているのです?」
微かに笑ったカリュアドスがそう言った瞬間、地面から鉄の壁が出現し、カリュアドスの身を霧の刃から守ってみせた。
そして、霧の刃は文字通り霧散した。
その現象に、先程まで声を高らかに笑っていたネビアの表情がひきつる。しかし、何度霧の刃を発生させてぶつけても、鉄の壁には傷一つついていなかった。
「くそっ……なんで……?」
そして、疑問に思ったカリュアドスの視界に先程までそこにはなかった筈の物体が映った。
それは、銀色の半球体だった。
部屋の角にあった巨大な扇風機の残骸を細かい鉄にして積み上げたものよりは小さいが、数は多かった。
それがいくつも床に設置されている。そして、それにつられて地面をよく見れば、床も白から濃い茶色になっており、それが部屋中に広がっていた。
その時、もう一つの違和感に気付いた。
ここまで倒してきた眷族達の姿がどこにもないのだ。
一番最後に倒した場所の方へ目を向ければ、そこには人一人入れる程の大きな半球体だけ。それがなんなのかすぐにわかったネビアは舌打ちしながら霧の刃をその半球体に飛ばした。
半球体につけられた巨大な傷、そこから見えたのは意識を失っている女性だった。
しかし、すぐに傷が修復され、元の半球体に戻った。
「修復が早すぎて、霧が接触しきれてない? しかも、あの修復速度……いくら特殊能力とはいえ、この霧に耐えれる代物なんて……眷族の力で出来る筈……」
そして、ネビアはようやく気付いた。
カリュアドスが言った言葉の意味を。
カリュアドスの特殊能力は、支配下にある鉄を操る特殊能力だった。
そして、彼は土に含まれる砂鉄をよく武器として使う。
だが、空間に砂鉄がない以上、カリュアドスの身に着けているものしか武器としては使えなかった。
だからこそ、カリュアドスは彼女達に協力を仰いだ。
そして、彼女達は自分の大切な眷族を護るために惜しみなくその力をカリュアドスに貸し与えた。
まずは戦場に砂鉄を多く含む土を大地の女神が大量に展開した。これにより、カリュアドスは無限に砂鉄を供給できる。
そして、鉄の女神は、その砂鉄に強力な加護を加えて、霧化しにくくしてみせた。
「……ありがたいことです。こんな私の為に二柱の神が力を貸してくださる。……これで、彼女達を傷つける心配をする必要がなくなった」
カリュアドスはそう言うと、角にあった鉄の山を支配下に置き、直径10センチ程の鉄球をいくつも造りだした。
鉄の壁のせいで何をしているのかわからないネビア。そんな彼の視界に幾つもの鉄球が壁から飛び出したのが見えた。




