55-23
「ソウイエバ、何故我々ガ鍵ヲ手ニ入レタノカ言ッテナカッタナ」
アルゼンは攻撃の手を緩めることなく、声をかけてくる。
それが自分を動揺させる為の行為だと考えている優真は、そのまま攻撃の回避に専念した。
「アノ鍵ハ、トアル眷族ヲ地獄カラ出ス為ニ必須ダッタ。ダカラコソ、『神々ノ余興』が始マル前ニ、ドウシテモ手ニイレタカッタノダ」
「……地獄?」
優真がピクリと反応したことで、アルゼンはニヤリと笑った。
「ソウダ! 今頃地獄ハ霧ニ包マレテイルダロウガナ!」
その言葉を優真は無視することは出来なかった。
優真の表情がみるみる内に青ざめていく。
「今頃大地ノ女神ノ本拠デ暴レテイルコトダロウサ!!」
そう言うと、アルゼンは剣を振るうスピードをあげながらカタカタと笑いはじめた。
◆ ◆ ◆
カリュアドスは、片膝をつきながら息を乱していた。
「参りましたねぇ、これは……」
辛そうに言ったカリュアドスの体に傷の類いはなかった。
「貴方にこんな能力は無かったはずですが?」
それは、目の前に立つ白髪の青年に向けられた言葉だった。
その青年は、カリュアドスを見下ろしていた。
「これは愛しの女神様が私に新たな力として授けてくださったのです。……とはいえ、さすが無敗の男……女神様の力を授かった私でも圧倒は出来ませんか……」
そう言いながら、白髪の青年は部屋の角にある銀色の半球体に目を向けた。
「……本当に厄介な特殊能力ですね……」
ネビアは吐き捨てるようにそう言った。
カリュアドスとネビアの戦いは、ネビアが少し有利な状況を造りだしていた。
霧が周囲に漂う戦場のなか、最初はカリュアドスが有利なようにも見えた。しかし、すぐにその戦況はひっくり返る。
その霧を吸ってしまった瞬間、カリュアドスは体が麻痺し始めたのだ。
すぐに砂鉄を魔法で加工し、巨大な扇風機のようなものを造りだし、自分の周りにある霧を全て吹き飛ばしたが、それでも体調は悪化するだけだった。
そして、カリュアドスはすぐに気付いた。
この霧が物体を霧化させるものなのだということに。
ネビアの特殊能力は、神喰らいを行ったことにより、【霧靄之王】というものに変化していた。
この特殊能力は、霧を発生させるだけではなく、霧を吸った者を霧化させることも出来た。天使以下の存在では抵抗することすら出来ないだろうが、眷族は体が麻痺して動けなくなるだけで、そこまで害はない。しかし、それは少量だったらの話だ。その霧は、長時間摂取し続ければ神でも霧にしてしまうというとんでもない代物だった。




