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その忠告はアルゼンにとって屈辱以外の何物でもなかった。
「……ふっふっふ……良いでしょう。私も真の力を見せて差し上げましょう……【死滅の王】」
アルゼンは己の特殊能力を発動させた。
その瞬間、どす黒いオーラが彼を包み込む。光でさえも飲み込むその漆黒のオーラが彼の体にまとわれた時、彼の姿は先程までとは全く違うものとなっていた。
白い髪は1本もない。それどころか皮膚や筋肉、血といった体を構成するものが全て無くなっていた……いや、骨だけを残して全ての肉体が彼から消失した。
黒いローブを纏っているため、その全体まではわからないが、それでも恐怖を感じるような光景だった。
なにせ、彼は未だに死んでいないのだ。
黒い装飾に包まれた禍々しい双剣を持つ彼は、爛々と輝く赤い双眸をこちらに向ける。
そして、彼は無言で剣を振った。
優真はそれを避けるが、彼の背後にあった木材のベンチは、斬られた。そして、目の前で信じられないような光景が映った。
斬られたベンチが一瞬で黒く染まり、灰となって地面に落ちたのだった。
それは、あの剣がどれ程危険なものであるかを知るには充分な現象だった。
「フハハハハ~! 恐レオノノケ! コレガ、死ヲ司ル男神ヲ喰ラッテ得タ我ノ真ノ姿ダ!!」
骸骨の姿となったアルゼンは、言葉を発さない優真の姿を見て、高らかに笑い始めた。
アルゼンの特殊能力【死滅之王】は、死という概念を操る能力だった。
真の力を発揮した彼の魂は、肉体を失ったその骨だけの体に宿る。だが、これにより、アルゼンは一時的に不死の力を手に入れた。
そして、神喰らいが彼に与えた力はそれだけのはずがなかった。
彼が両手に持つ触れたものを死滅させるその剣は、アルゼンの力を吸収して、最凶最悪な剣へと昇華させられた。
この剣に斬られれば、いくら優真でも死以外の未来を選択することは出来ない。そして、優真にはわかった。
その剣は、一振りで神をも殺せる程のエネルギーを持っているのだということを。
◆ ◆ ◆
優真とアルゼンの戦いは園庭へと移っていた。
攻撃を全て避ける優真と、大振りで剣を振るうアルゼン。触れられない以上、近距離攻撃以外が乏しい優真にとって、その剣は、まさに相性最悪だった。
それでも、優真の目に諦めなんて文字は見受けられなかった。
ここで自分が倒れるということが、どういう未来を招くのか容易に想像できた。だからこそ、優真は相手の攻撃を避けつつ、相手を倒す方法を模索していた。
そんな優真に、アルゼンが話しかけてきた。




