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優真は振り向き、彼女の表情を見る。
あまり表情に変化はないが、ふと視界に入る。彼女は拳を握りしめていた。
優真はすぐに視線をライに戻す。
「眷族になったばかりで、ファミリーとしても日が浅い。それなのにいきなりこんな席を任されて困惑している俺を心配して着いてきてくれたんです。なにか問題でも?」
「大有りだ。彼女は鉄の女神様から追放された存在。そんな彼女がここに居て良い道理はない」
「追放ねぇ……彼女は俺が未来の妻としてうちに迎え入れた……そう公表しているはずですよ?」
優真の言葉にライは顔をしかめた。
だが、彼は知らない。あれがどういうものであったかということを。
あの惨劇は、全て鉄の女神が仕掛けた茶番のようなものだと優真は鉄の女神本人から教えられていた。
優真がやたらと気にしていた『処刑人』という言葉をキーワードに設定し、もし彼にその言葉を告げられた場合、負のオーラを優真にぶつけるようにするという仕組みだった。
あそこまでの惨事になるとは、鉄の女神も思っていなかったが、念のために時空神の協力は得ていた。
優真はそれに文句を言おうとした。しかし、言えなかった。
『彼女が前を向いて生きていく為には絶対に必要なことだった』
涙を流しながら優真に謝った女神の言葉に、優真は何も言えなくなった。
言えるはずがなかった。
「……貴方がどう思おうと勝手ですけど、俺は彼女を信頼してこの場に連れてきています。彼女を追い出すなんてことは絶対にしない。文句があるなら……いつでもどうぞ?」
先程まで温和な雰囲気を出していた優真から、強烈な覇気と威圧的な雰囲気がライだけではなく5位以下のメンバー全員に向けられた。
その中で、誰も声を発することは出来なかった。
彼らは今の一瞬で全てを覚り、改めて実感させられる。
この男から怒りを買うことがどれ程危険なことであるのかを。
「い……いえ、こちらの配慮が足りませんでした」
少し怯えたような表情で優真にそう答えたライは、自分の椅子に慌てて座る。
「そろそろ時間だな」
二人のやり取りが終わったのを見て、キュロスはその言葉を告げた。




