55-2
絶対に出ることなど叶わない。外に出られた者など一人たりとも居ない。
彼女自身、それは覆らない事実だと信じていた。
しかし、それが目の前で崩された。
それがどれ程の恐怖を彼女に与えたのかはわからない。しかし、彼女の怯えをペット達は感じ取った。
一匹のモンスターが、彼女に迫る危機を摘み取る為に翼をはためかせながら彼目掛けて襲いかかる。
それは、かつてSランクとまで言われたミストドラゴンと呼ばれる存在だった。
だが、それはそのモンスターが生きていた時の話だ。
ネビアに突っ込んでいったミストドラゴンは一瞬で霧と化し、霧散した。
「王の凱旋だ。頭が高いぞ」
その威圧的な言葉と、全てを怯ませるその威圧的な目は全てを物語っていた。
彼は危険な存在となって、この世界に舞い戻ってきた。
「駄目! 貴方までそっちに行ってはいけません!!」
まだ引き返せる。
霧の女神はそう思った。
ネビアの背後に、炎帝と呼ばれる存在がいることは確かだろう。だがまだ、彼は神に手を上げていない。
だから、助けられると思っていた。
そんな彼女の体に腕が生えた。
いや、少し違う。正確には、彼女の体に腕が突き刺さったのだ。ネビアという男の腕が。
「そんな……ネビ……ア?」
彼はニコニコと笑っている。
その狂気に染まった笑顔が与えるのは、絶望のみ。
霧の女神は吐血する。純白の衣は、赤黒く染まっていく。
彼女の涙は赤くなり、床に滴り落ちる。
(……ああ、これが死ってやつなのか……)
自分の死を悟った彼女に、ネビアが笑顔で話しかけた。
「私はもう二度と貴女と離ればなれになんてなりたくありません。貴女も寂しかったんですよね? 安心してください。貴女は私の中で一生生き続ける。これからはずっと一緒ですよ」
ネビアは彼女を抱きしめ、笑顔で語りかける。
そして、霧の女神と呼ばれた存在は光の粒子となって、ネビアに取り込まれた。
「これで4人目ですね」
部屋の扉の影に隠れていた男がそう呟くと、ネビアは彼の方に恍惚な笑みを浮かべた。
「ありがとう、私の望みを叶えてくれて。約束通り、私の計画を邪魔した二柱は請け負ってあげるよ」
「ふふっ、頼もしい限りです」
そして、ネビアはその男と共に誰も居なくなったその部屋から出ていった。




