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その表情を見た瞬間、優真は心の中で怒りと悲しみを抱いた。
数千年。そんな時間を生きたことがない自分にとって、彼女がどんな気持ちでその時間を過ごしていたのかはわからない。
それでも、彼女が神になりたいと心の底から願っていたことだけはわかる。だからこそ、時空神様や大地の女神様、他にも多くの神が彼女に協力したのだろう。
それなのに、今も彼女は自分の眷族に心配かけまいと笑顔で接してくれている。
そんな彼女に、優真は言い知れぬ怒りを抱いた。
「……お前は……女神様は本当にそれでいいのか?」
「何度も言わせるなよ。私はーー」
「ふざけんな!!」
いきなり怒鳴ってきた優真を女神は驚いたような眼差しで見る。
「てめぇら神は毎回毎回勝手過ぎるんだよ! 誰が眷族になりたいなんて頼んだ!! 誰が神になりたいなんて頼んだ!! てめぇら家族のいざこざに巻き込まれてこっちはいい加減迷惑してんだよ!!」
優真の表情に、言葉に女神は気圧され、何も言えなくなる。
「この際だからはっきり言ってやるよ!!」
その瞬間、優真は少女の胸ぐらを掴んで彼女の軽い身体を持ち上げ、顔を近付ける。
「俺がなりたいのは保育士だ! 神でも眷族でもないただの保育士だ! だから!! 俺は今の生活が好きなんだ!! シルヴィがいて、シェスカがいて、万里華がいて、ハナさんがいて、ホムラがいて、ユリスティナがいて、メイデンさんがいて、ファルナがいて、イアロがいて、ドルチェがいて、スーがいて、ミハエラさんがいて、それから女神様もいる。そんな生活が俺は大好きなんだ! だから、神を辞めるなんて理由で俺の幸せな生活を壊すんじゃねぇ!! 俺は!! お前以外の子どもを司る神なんて絶対に認めねぇ!!!」
優真はそう怒鳴ると、女神を下ろして彼女から手を離した。
しかし、彼女は呆けていたのか、優真が手を離した瞬間、腰を抜かして地面に尻餅をついてしまった。
「なにやってんだよ……」
腕を組ながら見下ろす優真の言葉に、彼女は乾いた笑い声を発する。
「ははっ、優真君が驚かせてくるから腰が抜けちゃったじゃないか……」
「はぁ!? 元はと言えばお前が……」
優真は続きを言おうとするが、頭をかきむしってそれを中断すると、彼女に背中を向けてしゃがんだ。
「え?」
「……なんか本気で立てなさそうだし、しょうがないからおぶってやる」
素っ頓狂な声を発した女神に、優真は少しぶっきらぼうに答える。
その不器用な優しさに、女神の目頭が熱くなる。
そんなことなど露とも知らない優真は、なかなか乗ってこない女神に向かって更に言葉を続けた。
「ほらっ、さっさとうちに帰るぞ」
その言葉を聞いた瞬間、女神の目から大粒の涙が勝手に溢れ始めた。
「……ははっ、ならお言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう言いながら、子どもを司る女神は優真の首元に抱きつき、彼の背中に身体を預け、彼と共に皆の待つ本拠へと帰った。




