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本拠の外まではキュロスが先導してくれた為、優真達はすんなりと本拠の扉を潜れた。
未だに喋れない優真だったが、その顔は既に諦めたような目をしていた。
そんな優真に、キュロスが声をかけた。
「この前はすまなかったな」
その言葉に優真は首をかしげる。
何がと聞きたいが、声は発することができない。
「わからないならわからないままでいい。ファミルアーテの連中は私がちゃんと集めておく。大地の女神様の元眷族筆頭に関しては、来る来ないはそちらに委ねよう」
そう言うと、キュロスは創造神の本拠の中に戻っていった。
その姿を見送った優真は視線をそのままに、子どもを司る女神の肩を指でつつく。
首をかしげる女神に、優真は笑顔で自分の喉を指差す。しかし、その額には筋が立っており、女神は苦笑いしながら優真の喉に手で触れた。
「あーあーマイクテスマイクテス……おっけ、声はちゃんと出るな……さて、と……」
先程までは出なかった声がすっと出る。それを確認し終えた優真は、女神に視線を戻す。
「女神てめぇ、俺の声でないのやっぱりお前のせいか!!」
「当たり前じゃないか!! 優真君が時空神様の前でどれだけ無礼を働いていたのかわかってんの!! あんなん冗談通じないお父様の前でやった瞬間、女神降りる前に私の首が飛ぶわ!!」
「うるせぇ!! 俺が2度も同じバカをやるようなバカに見えんのかよ!」
「実際、声出せないようにしてなかったらやってただろうが!!!」
その後も二人の口論は長々と続いた。
「…………いったいどういうつもりなんだよ……」
「あぁ!?」
息切れするほど長い時間口論を続けていた優真は、急にそんなことを訊いてきた。
「……とぼけんな……俺に神を任せるなんて話……俺は聞いてないぞ……そもそも、お前が女神を辞めるって話だって朝聞いたばっかりだってのに……」
「別にいいんじゃないか? 想像してみなよ。優真君が神になれば、私みたいな奴に気をつかわなくてもよくなるんだぜ?」
「……気なんかつかったことねぇし……」
「ははっ、確かに」
ふてくされたような優真の言葉に、女神は乾いた笑い声を発する。
「……でも、優真君が神になってくれれば私は安心できるよ?」
「そんな心にもないことーー」
「嘘じゃないさ」
そう言った女神の方を、優真は見た。
彼女は優真の方に背中を見せていた。そして、後ろで手を組んでいた少女は、顔だけをこちらに向けてこう言った。
「優真君が神になってくれたらいいなって、後継の話が出た時からずっと、私はそう思ってたよ」
微笑みながらそう言ってくる彼女の言葉は、不思議と嘘には思えなかった。




