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目でわかるほど緊張している女神様の隣で正座をしながら、俺は呼び出した張本人を待っていた。
俺達が正座している場所は開けているが、玉座とおぼしきその椅子は目の前の階段をのぼった先に存在している。
創世神の一角が討たれる。それはもはや、笑って済ませられることではない。
いや、神を殺した時点で父さんは罪人として周りから見られている。父さんがそんなことをする筈がないと信じたくても、昨夜の父さんはもう、俺の知っている父さんとは別人だった。
(……もう、元には戻れないのかな……)
そう思った瞬間、心臓が締め付けられるような威圧的な視線を感じた。
そして、気付いた。
唯一の出入口は俺の背後。そこに座るなら、俺の近くを通らなければ座れないはずだ。にもかかわらず、その存在はそこにいた。
一人の男を傍に控えさせ、玉座で頬杖をつきながらこちらを睨む青年と言ってもいいくらい若い見た目の男。だが、漂う威圧感が、隣にいる女神様や他の神々とは一線を画している。
脳が、本能が、理解する。
このエメラルドグリーンの長髪の男こそが、創世神の一角、創造を司る男神様なのだと。
「よく来たな。我が娘とその眷族よ」
どこか怒りを感じるその声に、優真は身震いしながら子どもを司る女神と共に頭を下げた。
「おもてをあげよ」
その言葉に優真と女神は頭を上げ、その姿を視界に捉えた。
ストレートロングの髪型は、男でありながらその美形な顔立ちのおかげで、よく似合っている。また、全体的に筋肉質だが、隆起するとまではいっていない。
そんな見た目の中でも特徴的なのが、その金色の瞳だろう。どことなく、子どもを司る女神の面影がある。
「ふむ、良い目付きをしておる。娘よ、良い眷族に恵まれたな」
「はい」
創造神の言葉に、子どもを司る女神は即答した。
「この男であればお主も安心して後継を任せられるのではないか?」
その言葉に優真が驚いて声を上げそうになるが、そこでようやく気付いた。なぜか声を発することができなくなっていたのだ。
そんな優真が横で無言の訴えをしているなか、子どもを司る女神は少しの間を要し、答える。
「はい、彼なら私も安心して神の座を退けられます」
その表情は少し儚げではあったものの、どこかほっとしているようにも見えた。
「そうか。……では、雨宮優真よ。そちにアゼストを名乗る集団の討伐を命じる。キュロス、そちは雨宮優真の補佐をせよ」
「はっ」
跪き、頭を垂れるキュロスとは対照的に、優真は文句を言いたげだった。しかし、声を発することは出来ない。
そんな優真を無視しながら、創造神は続けた。
「ではキュロス、明日の朝、元ファミルアーテを集めよ。そこでこれからの対策を練り、早々に奴らを討ち取れ。見事成功すれば、雨宮優真……そちに子どもを司る神の称号を与えよう」
その言葉を最後に、謁見は終了した。




