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見ている者を落ち着かせる程の冷静さと的確な判断力を持ち、たった一人で100年間も神を支え続けた天使。優真や他の者達も絶大な信頼を寄せる彼女が、この時だけは取り乱していた。
いつもは入る前にノックをする彼女が、無礼にも了解無しで入ってくる。それが、優真達に更なる緊張をもたらした。
「た……大変です……女神……様……」
相当慌てていたのだろう。彼女は息切れしており、言葉が途切れ途切れになっている。そんな彼女に、あどけない笑顔を浮かべるシェスカが水の入ったコップを手渡す。
ミハエラはありがとうございますと言って、シェスカからコップを受け取り、一口で飲み干した。
そして、一呼吸入れた彼女は、いつもの調子を取り戻していた。
「創世神の一柱が子どもを司る女神様を本拠にお呼びです」
その言葉に、女神は心底嫌そうな顔を見せた。
「げっ、噂をすれば……それで破壊神様はなんて?」
嫌々といった風に聞く女神だったが、何故かミハエラは首を横に振った。
「子どもを司る女神様のことを呼び出したのは破壊神様ではございません」
「じゃあ時空神様なのかい?」
それにもミハエラは首を横に振る。その瞬間、子どもを司る女神は先程よりも嫌そうな顔を見せた。
「ご想像の通り、創造神様が子どもを司る女神様をお呼びです」
その瞬間、子どもを司る女神は、世界の終わりのような顔を見せた。
(……どんだけ会いたくないんだ……こいつ……)
優真がそう思ってしまう程の顔を、女神は見せていた。そんな彼女が、ミハエラにいぶかしむような視線を向ける。
「なんでお父様が今更私に? お父様の望みは叶ったんだから私に用はないだろうに……」
女神がそう訊いた瞬間、ミハエラは急に言いにくそうな表情をしていた。しかし、彼女には伝える義務があった。
「破壊神様の本拠が何者かの手によって……襲撃されたそうです」
その話は、朝の食卓には相応しくない話であった。
◆ ◆ ◆
破壊神様の襲撃について詳しい話を聞いた俺と女神様は創造神様の本拠に訪れていた。
ミハエラさんからの話によると、破壊神様の本拠は、外から見た限りでは何事もないように思われたらしい。しかし、中に入った途端、凄惨な光景が目に入る。天使と眷族はたった一人を除いて、全員息はなかった。
破壊神様の反応もなく、残っていたのは戦闘で焼き斬られた痕跡のある神の左腕のみ。
ミハエラさんはぼかしてくれていたが、俺にはすぐに誰が襲撃したのかがわかった。




