54-1
地獄。そこは、人間達の世界でいう牢獄に近い場所を指す。しかし、収容される者達は人間ではない。
神の家族と呼ばれる眷族だけが、地獄という永遠の苦痛を与える場所に収容されるのだ。
難攻不落の要塞とも知られ、神達が絶対の信頼を寄せる場所。
しかし、それは過去の話になった。
たった一人の化け物の手によって。
「あ~あ、あんまりやり過ぎるなって言われてんのにな~」
赤黒い血で染めたのではないかと思えるような色の髪をかきむしった男は、一点を見ながらそんなことをぼやく。
彼の目に映っていたのは、かつて地獄と呼ばれた要塞だったもの。しかし、それらは白い靄がかかっているかのように、白1色となっていた。
いや、1ヶ所だけ、人影のようなシルエットがあった。
そのシルエットは、こちらへ1歩、また1歩と近付いてくる。
「……もう充分なのか?」
黒に近い赤髪の男がそう聞くと、近くまでやって来たその青年が頷く。
「あっそ、ならそろそろ行くとするか」
そう言うと男は懐から鍵を取り出し、何もない空間にそれをさしこんだ。
その瞬間、目の前に時空の渦が発生する。
それは、時空神の眷族としての力と、とある神が隠した鍵を使用しなければ開かない天界への扉。
それが今、開け放たれる。
「さて、世界を壊しにいくとしますか」
楽しそうに笑うと、男は白髪の男を引き連れながら、その扉をくぐった。
◆ ◆ ◆
神々の世界が混乱渦巻かれるなか、優真達はいつものように皆で揃って食事をしていた。いや、いつもとは異なるのだろう。なにせ、その食卓には全員が揃っていたのだから。
ナイフとフォークの使い方に戸惑いながら、シェスカとファルナに口うるさく注意される左目を前髪で隠した赤髪の少女。
桃色の髪の少女の皿にニンジンを入れて、怒鳴られている銀髪の少女。
この二人が戻ったことにより、食卓はいつも以上に賑やかなものとなっていた。
優真もまた、彼女達の姿を見て、笑い声を発していた。
そんな彼らの食卓は一人の来訪者によって、幕を閉じる。
「あのバカ女神はいるかぁああああ!!!」
食卓の扉が勢いよく開け放たれ、全員の視線がそちらに向く。そこに立っていたのは一人の少女だった。




