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次の瞬間、背中に痛烈な痛みが走る。
見れば、そこには少し怒っている様子の万里華が立っていた。せっかく大人っぽい黒のドレスで美しく着飾っているのに、彼女はいつもと変わらないようだ。
万里華は背中をさすろうとする俺の耳を引っ張り、耳打ちしてきた。
「このバカ優真! ホムラちゃんはドレス着るの初めてなんだからちゃんと褒めてあげないと駄目でしょ!!」
「……うっす」
素直にそう返事をすると、万里華はわかればよろしいと言ってから手を離してくれる。
少し涙目になりながら、俺はこちらを一点に見つめてくるホムラに向き直る。
「とてもよく似合ってるよ、ホムラ」
「お……おう、お世辞でも嬉しいよ」
苦笑をうかべたホムラは左の人差し指で頬をかきながら、そんなことを言ってきた。どうやら、さっきの会話は聞こえていたようだ。
「悪いがホムラ、俺は冗談とかお世辞はあんまり好きじゃない。見て思ったことを正直に言っただけさ」
そう言うと、ホムラは再び顔を真っ赤に染め上げて俯いた。
「……あ……ありがーー」
俯いたままのホムラがなにかを言おうとした瞬間、俺は足に抱きつかれるような衝撃を受けて、反射的にそっちを見た。
そこには可愛らしいドレスに身を包んだ少女があどけない笑みを浮かべてこちらをみていた。
「お兄ちゃん! シェスカもね! お姉ちゃんたちと一緒にお着替えしたんだよ~!!」
そんな可愛らしいことを言ってくるシェスカと同じ目線になるようしゃがみ、よかったね~と声をかけながら頭を撫でる。
シェスカを抱き上げ、ホムラの方に目を向けると、ホムラはこちらを見て苦笑していた。その理由が理解できていない俺の背後で、万里華は露骨なため息をついていた。
◆ ◆ ◆
パーティーは何事もなく進んだ。
いや、あった。パーティーの途中で、傷だらけで眠っていたファルナとドルチェがパーティーに参加してきたのだ。
連れてきたミハエラさんの話によると、治療を司る女神様が直々に二人を治してくれたらしい。数日は目を覚まさないと判断されていた二人の傷は彼女の治療によって、みるみるうちになくなったそうだ。
ついでにホムラの顔につけられた傷も治したそうで、ホムラは感動のあまり、一度行っていたメイクをやり直さなくてはいけないほど泣いたそうだ。
ちなみに治療を司る女神様は、これでうちの熱心な信仰者を助けてくれた借りは返したからね、と言って帰ったそうだ。
その意味はよく理解出来なかったが、せめて、お礼くらい言わせてほしかった。
治療を司る女神様の言う熱心な信仰者っていうのは、最初の村で優真が仲良くなったライアンのことを指しています。




