53-12
父さんと出会った俺は、結局なにをすることもできなかった。
今日あったことは誰にも話せない。
俺と父さんの関係が知られ、俺が父さんに誘われたという事実が広まれば、俺は拘束されてしまうだろう。
そうなれば、俺は人伝に父さんの死か、世界の滅亡を知らされることになる。それだけはなんとしてでも避けたい。
絶対に父さんは俺が止める。俺以外の奴に父さんを殺されたくない。
父さんだってきっと、最初からこんなことをしたかった訳ではないだろうし、もしかしたら誰かに操られている可能性も……いや、多分操られてはいないだろうな。さっきの父さんはとても操られているようには見えなかった。
「……もう着いたのか……」
気付けば、俺の足は子どもを司る女神様の本拠前で止まっていた。
これ以上、さっきのことを考えるのはやめよう。心を読む二人がいる以上、探られる可能性が高い。
「……それに、せっかくホムラが生き返ってくれたんだ。辛気くさい顔なんてお祝い事には似合わないよな……」
自分にそう言い聞かせ、俺は扉を開けて皆の待つ本拠に入った。
本拠の中にある園内は、月明かりに照らされていた。
寄り道をしてしまったせいで、本拠に戻ってくるまでだいぶ時間がかかってしまった。
「……早く戻らないと……皆心配してるだろうなぁ……」
そんなことを思っていると、乗っていたエレベーターの扉が開く。どうやら着いたようだ。
廊下を歩き、少しだけ憂鬱な気持ちで扉を開く。
その瞬間、目の前に広がった光景を見て、思わず声を失ってしまった。
そこにいる彼女達は色とりどりのドレスで着飾っていた。
扉を開いた音に気付いたのか、鮮やかな赤いドレスを着ていたホムラと思われる少女がこちらに振り向く。
彼女は話していたであろうユリスティナとシルヴィに声をかけ、こちらに駆け寄ってきた。
「な……なぁダンナ……これ、似合ってるかな?」
彼女は少しメイクをしているらしく、一瞬、本当に彼女なのか疑ってしまった。しかし、そう思ったのは、メイクだけが原因ではないのだろう。
彼女は整髪しており、普段は隠していたその左目が、今は隠されていない。そして、そこに傷はなかった。
深く長くつけられた傷痕。彼女が見られるのを嫌がった傷はそこにはなかった。
それが信じられなくて、俺は彼女の左目に釘付けになってしまう。
すると、彼女が顔を徐々に赤く染め始めた。




