53-9
子どもを司る女神は、視界に時空神と麒麟の姿をおさめて頭を深々と下げる。
「申し訳ございません。時空神様や麒麟様、ここにはいないけど破壊神様にも協力してもらってまで神になったのに、勝手にこんなことして……でも、もういいんです」
その言葉に、強要の類いは見受けられなかった。
子どもを司る女神は、再び彼女の父、創造神の方へと顔を向ける。
「私の願いはもう充分過ぎるくらい叶いました。たった1年の間だけだけど、力になってあげたいと心の底から思えるような眷族や、共に笑いあえる友人、絶対に守りたいと思える家族を見つけました。……だから、もういいんです。私が神という地位に固執する限り、あの子の願いが叶わないというのなら、私はお父様の言うとおりに生きます」
彼女の表情は儚げではあったものの、確かな決心と覚悟がそこにあった。
彼女が神になることを望んだ時、一番力になろうとしていた大地の女神は、黙って涙を流している。きっと、彼女なら止めた筈だ。それでも、子どもを司る女神は考えを曲げなかった。
短い間ではあったが、共に過ごし、笑いあった青年。自分の為に戦ってくれた彼の為に、彼女は夢を諦めた。
そして、彼女の願いは受理され、神々は一人の青年の望みを叶え、一人の少女を生き返らせた。
◆ ◆ ◆
夢じゃないだろうか?
あの日、無力な自分が守れなかった彼女が、目の前で呼吸をし、立っている。
完全に望みが断たれたと思っていた……絶対に無理なんだと諦めていた……でも、夢じゃないんだ。
優真は赤髪の少女を見て、わなわなと震えていた。
そして、顔を綻ばせた赤髪少女が気まずそうにただいまと告げた瞬間、優真はくい止めていた涙が一気に溢れだし、そのまま彼女に抱きついた。
「おかえり……おかえりっ……ホムラ」
「えっちょっ……痛いって……ダンナ……」
優真の行動に、あわてふためいていたホムラだったが、すぐに顔を涙で濡らし、大声で泣き始めた。
その姿を見て、この場にいた者達は涙を流しながら、二人を見守った。




