53-8
「駄目だ!!」
空間全体に響いたその怒声は、この場にいる全員を黙らせた。
頬杖をついていた創造神が離れた位置にいる麒麟を睨む。
「己が属する神のピンチに眷族として命を賭けるのは当然! そもそも我々『神』が眷族の願いを叶えてやる必要などない。現に、これまでキュロスは何も望まなかったではないか!!」
「そりゃキュロスの勝手じゃろ? そういう条件で参加させておるのだから願いを叶えてやるのは当然のことじゃろうが……それとも神が約束を破るのか?」
「そもそも果たしていないのだから破るもなにもないであろう?」
「神喰らいを行った者はまごうことなき反則……エパルにも手を出しているのだから失格にしても問題なかろう?」
創造神も麒麟も互いに引く様子が見られず、時空神が静観している以上その口論は誰にも遮れないように思えた。
そんな状況の中で手が上がる。
それに気付いた時空神が創造神と麒麟の口論を手で遮る。
「どうかなさいましたか? ……大地を司りし者よ」
時空神の問いかけによって、全員の視線が子どもを司る女神の隣に立っていた茶髪の女性に注がれる。
「子どもを司る女神が、一言おっしゃりたいことがあるみたいです。……よろしいでしょうか?」
それは、問いかけてきた時空神にではなく、先程まで口論をしていた創造神に向けられた言葉だった。
創造神は、少しの間を要した後、腰を再び椅子に戻して頬杖をつき始めた。
「ありがとうございます」
大地の女神は深々と頭を下げ、隣にいる子どもを司る女神の方に体を向け、彼女に耳打ちした。
「本当にいいのね?」
不安そうな表情を見せる母に、少女は笑みを浮かべて頷いた。
そして、真剣な顔で創造神の目を見て口を開いた。
「創造神様、私は貴方の望み通り神になることを諦めます!!」
◆ ◆ ◆
子どもを司る女神の発言に、上級神の面々はどよめく。
その発言に唯一驚いていないのは、彼女の隣にいた大地の女神だけ。彼女はただ、哀しそうな表情で俯いている。
また、時空神、創造神、麒麟の3名も目を見開き、創造神に関して言えば、彼は無意識に立ち上がってしまうほど驚いていた。
「……ど……どういうつもりじゃ!! お主は神になりたいから時空神と破壊神を巻き込んでまで創造神に無茶な賭けを挑んだのではなかったのか!!?」
麒麟が声を上げるのも無理はなかった。




