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「どうかなさいましたか?」
手を上げた麒麟に対して、時空神はその見目麗しき顔で微笑みながら、訊いた。
「先程から聞いておったが、そりゃさすがに身勝手ではないかのう?」
その言葉に、他の上級神達は一触即発の気配を感じとる。
本来、麒麟は上級神の枠組みにはいない。理由は単純だった。彼は南大陸のみに力を伸ばし、それ以外には関与することを嫌う神だからだ。
他の神々に少し力を借りる代わりに、眷族達を方角の指標として使わせているが、彼はあまり協力という言葉が好きではないのだ。
もし、彼が上級神という枠組みに入るのであれば、その位は、創世神と同等といっても過言ではない。
そんな存在が、時空神の発言に文句を言った。そして、時空神はこれを無視は出来ない。
「どうしてでしょう?」
時空神の質問に、麒麟は髭を撫で、立ち上がる。
「うむ。わしは彼の者がどういう人間でどういう目的を持ってこの余興に挑んだのかを知っておる。お前さんがわしの下に送ってくれたからのう」
挑発するかのようにも見える眼差しを、麒麟は時空神に向けた。しかし、時空神は微笑むだけだ。
「じゃが、余興は後一戦のところでこちらの都合により中止。命懸けで戦って勝ち得たというのに、これはあんまりではないか? あやつはわしの下で軽く3桁は死ぬような修行を行っていたのだぞ?」
その言葉に、聞いていた者達がざわつき、隣にいる者と話し始めた。
「それではどうすれば良いのですか? まさか決勝をやれと?」
「そんなことは言っておらん。ただ単に褒美も無しに傷心中の彼を酷使しようとするのが気に食わん。少なくとも優勝者の権限くらいは与えても良いのではないか?」
麒麟がそう言った瞬間、創造神が目を見開いた。そんな彼の耳に、麒麟の意見に賛同するような声がチラチラと聞こえた。
自分にはあまり関係ないと考えていた彼は、ここでようやく気付いた。これは時空神と麒麟による自作自演の茶番なのだということに。




