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炎の壁が出現したことで、破壊神の攻撃は炎に阻まれ、バラドゥーマを捉えることはなかった。
バラドゥーマもまた、拳を粉砕された勢いと炎の壁から放たれる熱風によって身体を床に転がす。
互いに何が起こったのかわからない様子であったが、そんな二人の前に二つの人影が現れる。
一人は黒髪の中に目立つ一房の赤い髪が特徴的な男。もう一人は黒いローブを纏った白髪の青年。
その二人を、バラドゥーマと破壊神は知っていた。
炎帝雨宮優雅と元死神の眷族筆頭アルゼンがそこに立っていた。
そして、炎帝はバラドゥーマの方へと目を向ける。
「最強の力が欲しいのか?」
その言葉に、バラドゥーマは悔しそうな表情を見せる。
彼の体から溢れ出すオーラが、覇気が、自分よりも高みに存在しているのだと本能が感じとった。
だが、そんな奴に力を借りるのはごめんだった。
「うるせぇ!! 手ぇ出すんじゃねぇよ! これは俺の獲物だ!!」
バラドゥーマはそう叫ぶと、赤く染まった右手を左手で押さえながら、辛そうな表情で立ち上がる。しかし、足を踏み出そうとした瞬間、彼の耳に炎帝の声が聞こえた。
「では、お前は神喰らいの方法を知っているのか?」
そう言われた瞬間、バラドゥーマは足を止めた。
バラドゥーマはその方法を知らない。出来るという事実とその力の素晴らしさは目の前で見たが、思えば神喰らいなんてことはやったことがない。例え、破壊神にここで勝ったとして、それで終わりなのか?
否、そんなはずがない。
そもそも、神は死ねば粒子となって存在ごと消えてしまう。
バラドゥーマ自身も、神喰らいを行おうとして神を殺しきった者を過去に見ている。
だが、彼らの中で神喰らいを成功させた者などいない。
全員、地獄へと送られ、それで終わりだ。
要するに、何かしらの方法を取らねば、その力を得られない。
「……なら、俺は何のために仲間を殺したというのだ?」
絶望的な事実に今更気付いたバラドゥーマの表情が真っ青になっていく。
そんな彼に悪魔の囁きが手を伸ばす。
「私に協力するならば、神喰らいの方法を提供してもいいぞ?」
その言葉に、バラドゥーマの耳は反応した。




