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破壊神は壁に叩きつけたバラドゥーマの方に、一歩、また一歩と歩を進めた。
「炎帝という男にそそのかされたのか?」
破壊神が拳を握り、振り下ろすと瓦礫と共に砂塵が舞う。
しかし、そこに赤い液体は混ざっていない。破壊神もまた、既にそこを向いてはいない。
バラドゥーマはギリギリのところで、破壊神の攻撃を回避していた。
「別にそういう訳じゃない」
荒い息を吐くバラドゥーマ。しかし、彼の体からは壁に叩きつけられてなお、怪我の類いは見当たらない。
「これは俺の意思だ! パルシアスが炎帝とかいうやつに殺されたあの時、俺の中の何かが壊れた。数百年、あの二人に勝つ為だけに費やしてきたあの時間が無駄になったあの時、努力や頑張りなんてものは無意味なんだと覚った! 努力や頑張りなんかにすがるから、俺は二人を越えられないんだ!! だったら、俺もあの力が欲しい。あの力を手にいれて、俺は最強になる! 神の力を喰らって、炎帝も、キュロスも、神でさえも倒せる力を手に入れて真の最強になってやる!!!」
拳を握り、破壊神に対して高らかに宣言するその姿は、洗脳されているようにはとても見えなかった。
幾度と味わった敗北の苦渋。心身を鍛え上げ、洗練してきた己の技が通用しない。同じ創世神の眷族筆頭という立場でありながら、無能の烙印を押される日々。
彼の心はとっくに限界を迎えていた。
それでも前を向いていられたのは、己の技を磨きあげた先に、いつか道が開けると信じていたからだ。
しかし、二人の元人間によって、彼の視界は真っ暗になる。
どんなに努力を重ねても、絶対に越えられないと思ってしまった存在が、数ヶ月前にただの人間だと吐き捨てた男によって破れた。
自分の数百年が数ヶ月に負けた。
努力なんて、才能には勝てないのかもしれないと思った矢先、彼の中に一つの可能性が現れる。
自分の勝てなかった存在に神の力を喰らって勝った元人間。
その瞬間、その力を切望した。
だが、その辺の神では駄目だ。
最低でも上級神、自分も原素の神以上でなければ万が一がある。ならば、その上に君臨する。太陽神や月の神、いや、大地の女神か海洋の男神クラスでなければ最強にはなれない。
いや、そんな神の元に赴かなくても、うってつけの神が近くにいるではないか。
そう思った時、彼の中に躊躇いという言葉は存在していなかった。




