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「優真君にはね……実は嘘を吐いてたんだ。人が死んだら手紙を届けるなんて風習はない。あれは彼の父親に会う口実だった。子どもを守って死んだ男にね」
その言葉に万里華は動揺するが、女神の話は続いた。
「雨宮優雅が守った子どもを見て、その子の運命に興味が湧いた。そしたら彼自身も子どもを車から庇って死んだ。それが……きっかけだったんだ。だから、優真君をこっちの世界に招いて、雨宮優雅という眷族に会う口実として家族や親しい者からの手紙という手段に出た。本当は父親だけにしとこうと思ったんだけど、内容があれだったからね。君達にも出してもらったって訳さ……」
「おじさんは……優真が死んだって聞いた時、どういう反応を見せたんですか?」
その質問は、万里華がどうしても聞きたかったことだったが、同時にとても聞きたくない内容だった。
万里華は、炎帝と呼ばれていた彼のことをよく知っていた。彼女がよく知る彼なら、少なくともあんなことはしない。本当は、彼の姿を借りた別人なんじゃないかとか、無理矢理協力させられてるんじゃないかとか、そんな考えが、彼女の頭を過る。
「……彼は優真君の死を知った瞬間、激しい動揺を見せたよ。そして、意を決したように短く何かを綴った紙を私に渡してこう言ったんだ。絶対に中を見ずに優真へすぐ見せてくれってね。でもさ、そんなこと言われたら見たくなるじゃん! そんで見たら、こっちへ来るな……ってさ。でも、眷族がどうしても欲しい私にとって、優真君は招かないといけない存在。だから、あえて他の手紙を用意して、まずはマリちゃんの手紙を見せた。でも、流れでお父さんからの手紙を見せる訳にはいかないからね。見る前にこっちへ来させたって訳。……今思うと昔の私って本当に自己チューだったな~」
女神の話は万里華が予想していたものより壮大な内容だった。自分は優真が死んだからこの世界に来たのだとばかり思っていた。しかし、本当の要因は優真の父親が取った行動を気に入らなかった女神の発案が原因だった。
それどころか、女神が優真の父親に頼まれていた行動を遂行していたならば、この生活はそもそも存在しなかったまである。
「……そっか、父さんの手紙ってそういう意味だったんだな……」
万里華が優真にその内容を伝えるべきかどうか迷っていると、ベッドの方から弱々しい声が聞こえてきた。
急いでそちらを見ると、優真がうっすらと目を開けていた。
「優真!? 大丈夫なの!」
体を起き上がらせようとする優真に、万里華が慌てて声をかける。しかし、優真は大丈夫だと言わんばかりに、支えにこようとしていた万里華を手で制す。
「大丈夫……とは言えないかな。昔の俺だったらまた一人でふさぎこんでた。……でも、今はそんなことをしている場合じゃない。こんなところでうじうじしている間に父さんが他の誰かに殺されるのも、誰かを殺すのも嫌だから」
ベッドから起き上がった優真の目は、万里華ではなく女神の方へ向けられていた。
そして、真剣な表情を見せる優真は口を開く。
「……だから、父さんは俺が止める」




