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世界には絶対に犯してはならぬ禁忌というものが存在する。
例え、どんなに悪事を働こうが、どんなに真面目に働こうが、それを犯せば等しく罪。
決してどんなことをしても許されぬ罪。
決してどんな理由があっても許してはならぬ罪。
犯すことは不可能と言われていた罪。
それを炎帝は犯したのだ。
スタジアム全体がどよめきを見せる。
その中でも神々が取った行動は一つ。侮蔑と恐怖の眼差しを炎帝と呼ばれる存在に向けることだけ。
今見せた炎は、先程クレエラがもたらした情報が本当であることの証明。
炎帝は犯すことの許されない、いや、本来であれば犯すことが出来ない筈の大罪を犯した。
「……神喰らい」
観客席の誰かがその言葉を口にする。
それを知っている者は全員が脳裏を過ったであろう大罪の名。
しかし、数ヶ月前に眷族になった彼は知らない。
「なぁ師匠、神喰らいってなんなんすか?」
その言葉に顔を強張らせていたカリュアドスは重々しく口を開く。
「……『神喰らい』、それは口にするのも憚られる大罪です。神に認められ、神のごとき力を行使できる『王の領域』とは違い、神を殺し、神の力を取り入れることで強制的に神格となれる方法。以前、一度だけその方法を行う者がおり、その際、地上にいる生物の8割が死滅し、多くの眷族や天使にもかなりの被害が出たという話です」
その内容は誇張しているのではないかと疑いたくなるほど、信じられないものだった。しかし、カリュアドスは無意味な嘘を吐く性格ではない。また、その言葉や表情からは嘘を言っているようには思えない。
「得られる代償は確かに大きい。だが、神に反乱など普通は考えないし、そもそも神に勝つということ自体があり得ない。……とはいえ、目の前で起こっていることは事実。しかも、前回は下級神でしたが今回は上級神……どうなるかなんて想像がつきません」
いや、本当はカリュアドスにもわかっていた。
下級神の時であれほどの被害をもたらしたのだ。もし、数千年前と同じ結末になった時、地上の生物はおろか、この世界全てが無に帰す可能性がある。
それは絶対に回避すべき運命だった。




