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「……おかしいな……なんで普通に動けてるのかな?」
パルシアスの表情には明らかな動揺が見てとれた。
今までパルシアスの特殊能力【時間之王】を破れた者は一握りしか存在しない。
瞬間的ではあったが時戻しを破ることが出来た優真と、時戻し、時間停止の両方を一瞬で破るキュロス。そして、創世神の三柱だけだ。
それを満たす条件は……
「相手が同等以上になった時……だったか?」
炎帝が珍しく聞かれた質問に答えた。
「なんでそれを……」
「カイザルクが教えてくれたのだ。要するに、俺がお前よりも強いという証明に他ならない」
そう言った瞬間、炎帝の体から真っ赤なオーラが迸った。そして、彼の腕は燃え盛る炎を纏った。否、彼の腕が炎に纏われたのではない。彼の腕から炎が発生しているのだ。
それが普通のことではないということはパルシアスも理解していた。
上級神の炎の男神が生み出した存在とされている眷族筆頭ならば、それが可能だった。しかし、パルシアスは彼が元人間であることを知っている。
元人間の彼には炎を自由自在に使えても、体から発生させることなど不可能なのだ。
それは、時間停止が破られたことと同じようにパルシアスを驚かせた。
「……炎帝……お前、何があった? 昨日までのお前は確かに強いとは思えたが、それでもあいつみたいに鍛え上げた強さだった……でも、今のお前は……」
その次の言葉を言おうとしたパルシアスが何かに気付いたかのように、勢いよく炎の男神チームの控え室へと目を向けた。
そして、彼は焦ったように声を荒げる。
「天使クレエラ!! 炎の男神様と今すぐコンタクトを取れ!!」
その言葉を放つと同時に、炎帝の身から神々しい光と共に身を焦がす程の炎が放たれ、パルシアスを襲った。
それを認識した瞬間、パルシアスはテレポートを発動してその場からいなくなる。しかし、その神をも燃やすことを可能にする炎はパルシアスの半身を焦がし、パルシアスは態勢を崩す。
左足は焼き切れ、左腕はくっついているだけで機能していない。
あと0.1秒でも遅かったらこの程度では済まなかっただろう。
痛みと熱に顔を歪めるパルシアスはすぐに己の特殊能力で左半身を元に戻す。しかし、痛みは無かったことには出来ない。
半身を元に戻しただけで、痛みを感じた脳や体はそのままだからだ。それは、一つの恐怖をもたらすと共に、最悪な結末を想像させる。
そんな彼の耳に、天使クレエラのマイク越しの声が届く。
「パルシアス様! 炎を司る男神様は控え室におられません!! それどころか上空の席にも、本拠にも……何処にも所在が確認出来ません!!」
その焦ったように放たれたクレエラの言葉は、今日一番のどよめきをもたらした。




