52-7
いきなりパルシアスの姿がそこから消え、発動していた炎弾が消えることなく通りすぎていく。
次の瞬間、パルシアスの姿が炎帝の背後に現れ、強烈な回し蹴りを炎帝の首筋に叩き込もうとする姿が全員の視界に映る。
その速さは光の速さを超え、炎帝の首と胴を容易く引き離すことが出来ただろう。しかし、炎帝は右腕を上げて、極小の動きだけでそれを止めてみせた。
パルシアスはその事実に少し動揺するが、すぐにそれどころではなくなる。
炎帝が右腕に炎を纏ったのだ。
「ファイアウォール」
パルシアスが地面に足をつけるのと同時に展開される巨大な炎の壁。当たればいくらパルシアスであってもひとたまりもない。それを本人も自覚していた。
「時戻し」
バックステップで後ろに下がりながら左手をかざし、ファイアウォールの時を巻き戻していく……が、回避に意識を割きながら精密なコントロールを要する時戻しの使用は、パルシアスであっても容易ではない。集中力を上げて対処するが、炎帝に対してはノーマークになってしまう。
3発の銃声が轟く。
ファイアウォールで視界が炎で埋め尽くされたパルシアスにも、その音を無視するなんて選択肢は無かった。
だが、この状況で炎の纏った銃弾を防ぐ手立てなど無いに等しい。
「くっ……」
悔しそうな顔を一瞬見せたパルシアスだったが、すぐにその姿がそこから消え、炎を纏った銃弾は残像を穿つだけに終わった。
テレポートで瞬時に後退したパルシアスは、未だに燃え盛る炎の壁を見て、違和感を覚えた。
時戻しで完全には消えないその展開スピードと眷族筆頭ですら容易く灰にしてしまいそうな高火力。筆頭ですらない眷族であそこまで強力なファイアウォールを展開することなどあり得ないと思えた。
だが、現実にそれが起こっている。
「……さすがは、炎神様と炎神様の眷族筆頭が準決勝の大将戦を任せる程の実力者……雷神様の眷族筆頭も倒してたし、やっぱりただ者じゃないな……でも、もう終わりだ」
パルシアスはそう呟くと、【時間之王】を発動した。
結界内の全ての時が止まり、当然、炎やそれに隠れていた炎帝の姿も止まる。
パルシアスが地面を蹴って、炎の壁を回り込み、炎帝のもとまですんなりついてみせた。




