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その前代未聞な光景に、マイクを持った天使は頭が追い付かない。そんな天使に向かって、男は目を向ける。
その目に気圧され、天使はマイクを握って彼に問う。
『なぜ降参なさるのでしょう? ここまで来たのであればもう少しくらい頑張ってみてはいかがでしょうか?』
「それじゃ俺が勝っちまうだろ? それじゃ、うちの大将が楽しめねぇからなぁ~ここは優しい俺が降りてやるって訳だ」
その言葉をエパルは適当に聞き流す。負けるつもりは毛頭無いが、パルシアスと戦いたいから中堅戦を辞退するという理由はわからないでもない。
だからこそ、エパルはその条件をあっさりと受けて、自分達の控え室へと歩を進め始めた。彼が一瞬邪悪な笑みを浮かべたことを知らずに。
エパルの背後に立つ男の手に仰々しい見た目の大鎌が握られる。しかし、ほとんどの者が彼の方を見ていない。
まるで、その空間にいる彼を認識していないかのように、全員が振る舞っている。
そして、フードの男は少女の首を刈り取る為にその大鎌を振るった。
空間にかかっていた事象が書き換えられ、先程まで気にもとめていなかった全員が、フィールドで行われた違反行為に目を向ける。
そして、狙われたエパルはというと、地面に這いつくばっていた。その首は胴に繋がっており、赤い液体が流れる様子も見られない。
「……やっぱりお前だけは気付くと思ってたぜ……」
大鎌を振るったフードの男がニヤリと笑う。
その目の先には、目に怒りの炎を宿らせたパルシアスがしゃがんでいた。彼はエパルを押さえ込み、彼女に向けられた刃を素手で受け止めていた。
「いったい何のつもりなんだ、カイザルク?」
パルシアスが憎々しげに吐いた名前にエパルは聞き覚えがあった。それどころか彼女もよく知る人物だった。
カイザルク、彼は元時空神の眷族で、エパルが来るまでパルシアスの次に強い実力者だった。
しかし、彼は時空神の下から去った。
地上にいた優真達を襲った罪で追放されそうになったところを何処かの神によって引き取られたという話だった。
元仲間だった男に殺されそうになったという事実が、エパルの顔を青ざめさせていく。
いや、それどころか彼は試合でではなく、試合後に殺そうとしてきた。
何がなんだかわからないエパル。そんな彼女の前で、カイザルクはエパルを殺せなかったことを悔しがりながら地獄へと送られた。




