52-1
ふと、彼は目を覚ました。
視界に映ったのは、いつも通りの天井。自分がなぜここにいるのかわからない優真だったが、彼は拳を握ったり開いたりして自分の感覚を確かめる。
ちゃんと動くことが確認できたことで、優真は自分が生きていることを再認識する。
そして、珍しく誰もいない部屋に疑問符を浮かべ、とりあえず優真はベッドから抜けようとする。
「いっっっつ!!?」
その瞬間、全身に痛みが走る。
それはまるで筋肉痛を思わせるような痛みだった。かなり痛いが、我慢できない程ではない。
それを実感したことで、優真はとりあえずリビングに向かった。そこならば誰かがいるだろうという軽い気持ちだった。
しかし、いざリビングの前についてみれば、子ども達とメイデンさん以外が全員集合しており、沈鬱な面持ちをしていた。
それは、流石に異様な光景と言わざるをえなかった。
確かに俺はあのキュロスに勝利し、決勝進出を決めた筈だ。いや、終わったと理解した瞬間、意識を失って倒れたから結果を聞いてなかったのは確かだけど、それでも俺が立っている時に結界が解除されたんだから俺が勝った筈だ。
キュロスに勝って無事生還。普通もっと喜んでいいんじゃないの?
……でもあそこに女神様の姿もあるんだよなぁ……これって起きてきた俺を驚かせようとかしてるんじゃないの? 俺が結果発表前に寝たのをいいことに負けたような雰囲気を醸し出して……入ってきた俺を驚かせようとしているとか?
あり得るなぁ……あの女神様だし……それに、そうじゃなきゃ俺が生きていることを万里華達が喜ばない筈ないと思うし……まぁここは一つ知らない呈で入るか。
優真は1つ大きく深呼吸をし、あえて何も知らなさそうな表情を繕う。
扉を開き、中に入った瞬間に「俺、あの後、眠っちゃってよく覚えてないんだけどここって天国じゃないよね?」と何も知らなさそうな顔で尋ねて皆の反応を伺う。案の定の返しをしてきた時に笑いをこらえていられるか不安になるが、それでもやってみたいと思えた。
そして、優真は扉の取っ手を握る。
「なぁ俺、あの後眠っちゃって…………どうした?」
ドアを開くと、中にいた全員が一斉にこちらを見てきたことで、優真は次の言葉を告げられなくなる。そして、気付く。そこにもう一人、扉の隙間からでは死角となる位置に座っていた白髪の少女の存在に。
エパルは優真の姿を見た瞬間、目元に涙を浮かべ、いきなり泣き始めたのだった。




