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本を読み終えると彼女は、私にまた明日ね、と言って帰っていく。そんな彼女を見送っているとどっと疲れが沸いてくる。
これまでの仕事とは比にならない程疲れた。
また明日もやるのかと、私は疲れた体を引きずりながら帰った。
それからというもの、彼女は毎日毎日別の本を持ってきては私の膝に座り、私の指導を楽しそうに行っていた。
その日常が楽しく、私もいつの間にかその時間が来ることを楽しみにしていた。
そんなある日のこと、あのお方が私に訊いてきた。
「娘を嫁に貰うつもりはないか?」
「嫁に……ですか?」
その言葉の真意が理解出来ない。大切な一人娘だと言い聞かされていただけに、その言葉は予想外過ぎた。
「うむ。わしの娘で才能も教養も十分……他の神達も娘との子どもが欲しいと考えるやもしれん。もしくは、人間達の世界で神の子として過ごさせることになるかもしれん。だがな、わしとしては、大事な娘が信用ならん奴に騙されんか不安で不安で仕方無いのだ」
「……それで何故私に?」
「決まっておる。わしが一番信用しておるからだ。お主であれば娘を任せられる。絶対に不幸にはしないと信じておるからお主に頼みたいのだ」
その言葉が嬉しくない訳がなかった。神から信頼されている。これ程嬉しいことは他にない。
だからこそ、私はその言葉に即答した。
「かしこまりました。創造神様の目が間違っていなかったと絶対に証明してみせます」
「うむ。だが、今のままでは駄目だ。まだ弱すぎる。己を鍛え直し、誰にも負けぬ力を手に入れろ。時間のことなら気にしなくてよい。こちらで対処しておこう」
こうして、私は己を1から鍛え直した。
辛く苦しい修行を乗り越え、遂に最強の力を手に入れた。そして遂に創造神様のお眼鏡にかなう程の実力を身につけた時……彼女は神になろうとしていた。
◆ ◆ ◆
背中を斬られたキュロスの表情が痛みで歪む。しかし、それが見えない優真に躊躇の概念は存在しない。
すぐに刀を翻し、再びその背中を斬ろうとするが、それは何もないところから現れたアイジスの楯が防いだ。
アイジスの楯が砕かれるのと同時に、キュロスは優真から距離を取っていた。
優真は追い討ちをかけようとするが、急いては事を仕損じるという言葉を自分に言い聞かせて、剣を構え直す。
相手はかつてない程の強敵。そんな相手に勢いだけでやっても、自分の足下がすくわれる可能性の方が高いと理解しているからだ。
そんな優真と違い、キュロスは先程のダメージが思ったより深かったのか、急によろめき、片膝をついた。




