51-23
女神様はポツリと呟く。
「……今日もダメなんだ……」
その悲しい言葉に、俺の心がざわつく。
「申し訳ございません」
女神様の呟きに対して、ミハエラさんは謝る。
その姿は、俺が知っている彼女とは別人のように思えてならなかった。
親しさというものは一切感じられず、その態度はまるで、目上の者を怒らせないようにする為だけに使っているように思えた。
悲しそうな顔を見せた女神様は、再び本を読み始めた。
その傍で、ミハエラさんは立ち続ける。何をするでもなく、ただ立つだけ。それは、端から見れば、少女を見守る大人のようにも思えた。……ただ俺には、外に出てはならぬと命じられた少女を見張っているように思えてならなかった。
しばらく本を読んでいた女神様は、本を開いたまま、首だけでミハエラさんの方を向いた。
「ねぇミハエラ?」
「なんでしょう?」
すぐに答えたミハエラさんに対して、女神様は言うか言うまいか躊躇している印象が見受けられた。いや、それはまるで答えを聞くのが怖いと思っているような表情だった。
女神様の握っていたページがシワを寄せた。
「……私っていつここから出られるの?」
その質問に、ミハエラは目を見開き、どう答えるべきか迷っている印象が見受けられた。
「申し訳ございません。天使長の私にはそこまで知らされておりませんので、私の口からはなんとも……」
その答えを聞いた瞬間、女神様は顔を本に向ける。
そして、本のページに濡れたような痕が現れる。
「……なんで私は外に出ちゃ駄目なの……なんで私だけ出ちゃ駄目なの……皆はいっぱいいっぱい遊んでるのに……なんで私だけ…………お母様に会いたいよ……おじさんに会いたいよ……」
ページに濡れた痕が広がっていく。
彼女は、左腕で目元を擦るが、それでも涙は溢れてくる。
やめてくれ……頼むから……そんな顔を俺に見せるな……!
お前は俺の前でふざけてばっかりで、俺に迷惑をかけてばっかりで、俺を振り回してばっかりいる駄女神だろ!
俺はお前のことが嫌いなんだ。
今回の大会だって、お前の為に出た訳じゃない。俺が自分の意思で出たいと望んだから出たんだ!
だからやめろ!
そんな表情見せられたら……手を差し伸べたくなっちまうじゃないかっ!!
……くそっ! くそっ! くそっ!!
俯いていた優真は目に涙を溜め、目の前の少女に悔しそうな顔を向けた。
「……もうちょっと待ってろ……絶対お前を笑顔にしてやるから!」
そして、優真の姿は光の粒となって消えた。




