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キュロスの放った言葉に会場中がどよめく。
結界が解除されていないのは、おそらく優真がかろうじて意識のある状態なのだと大半の者達は思う。だからこそ、おかしいのだ。
あのキュロスが、対戦相手にまた立ち上がってくる猶予を与えた。
大半の者達はキュロスと対峙する時、絶望を見る。
自棄になった攻撃を仕掛ける者、戦う前から諦める者、キュロスを相手に本気で勝とうと挑む者、みな例外なく最後には絶望の眼差しを見せていた。
しかし、優真だけは違った。
絶望の眼差しをキュロスにではなく、時計に向けた男など初めて見た。まるでそれは、時間さえあれば、まだ闘えるとでも言いたげな表情だった。
のらりくらりと何を考えているのかわからないパルシアスとは違う。己の研鑽に長き年月をかけ、強さを求め続けるバラドゥーマの眼差しとも違う。
あの漆黒の中に見えた一縷の光。それがなんなのか見てみたいとキュロスは望む。
◆ ◆ ◆
そこは暗い空間だった。
ここがどれくらい広いのかはわからなかった。ここがどこで、どういう場所なのかもわからない。……ただ、ここに居るのは俺だけじゃなかった。
俺の目の前でつまらなさそうに本を読む少女。
エメラルドグリーンの長く艶やかな髪、この世界の神達が着る白き衣を身に纏い、その金色の瞳は持っている本に向けられている。
床に足を開いて座っているせいで、その長い髪は床に触れている。
「……女神様?」
不思議に思い、そんな言葉を口から発してしまう。だが、彼女は俺に気付かない。反応を示さない。
彼女はずっと、退屈そうに本を読んでいた。
すると、別の登場人物が現れた。
それは、天使のミハエラさんだった。
彼女がこの場に現れると、女神様は楽しそうな表情を見せた。
「ミハエラ! ミハエラ! お仕事終わったの?」
分かりやすいくらいにテンションが上がった女神様は、ミハエラさんの方に駆け寄る。
「はい。今日の仕事は全て終わらせました。他にやるべきことがございましたらなんなりとお申し付けください」
「本当に!? なら私と遊んで!」
楽しそうな笑みを見せる女神様の様子に、ミハエラさんは顔色一つ変えずに対応する。
「申し訳ございません、お嬢様。私は創造神様の申しつけを破る訳にはいきません。非常に心苦しいのですが、私抜きで、お願いいたします」
その言葉を聞いた瞬間、女神様は残念そうに俯いた。




