51-21
優真は視界が歪み、よろめく体に力を込める。
頭を手で押さえ、辛そうな顔を見せる。
(……まさか……)
震える手を見て、優真は時計を確認した。
そして、時計の針は9時55分をさしていた。
その現実に、優真は絶望を見るような表情を見せた。
そしてこの時の優真はとても重要なことを忘れていた。
「よそ見をしていていいのか?」
声がした方に顔を向ければ、そこにはゲイボルグを構えたキュロスがちょうど投げるところだった。
先程と同じく、優真の目前にゲイボルグが迫る。
避ける余力も、防ぐ余力も、今の優真にはない。
ゲイボルグは再び優真を貫き、もはや耐える余力の無い優真はそのままゲイボルグと共に結界へと叩きつけられる。
結界にぶつかり、ゲイボルグは塵となって消え去る。しかし、優真の体は塵となることはない。支えるもののなくなった優真の体は、操り糸の切れたマリオネットのように、地面に崩れ落ちた。
◆ ◆ ◆
優真の意識は既にない。もしかしたら死んでいるかもしれない。ただ、たった一つ言えることがあるのであれば、優真とキュロスを閉じ込めている結界は、消える兆しを見せなかった。
優真の意識がまだあるのではないかと、会場中が騒がしくなるが、子どもを司る女神には理由がわかった。
この結界を張ったのが、自分の父親であるという事実がある時点でこうなるかもしれないと、彼女もわかっていたのだ。
彼女の父、創造を司る男神は、娘の眷族筆頭を確実に殺すため、結界に細工をした。
おそらく、優真が死なない限り、結界は解除されないのだろう。娘の未練を断ち切る為に、創造神は優真を殺すつもりなのだ。
他の二人の時にしなかったのは、ここで確実に優真を消す為。万が一にも彼を生かす可能性を出さないようにする為に違いないと彼女は確信してしまった。
「……ごめん、優真君……私のせいで……私のせいで……」
泣き崩れる女神の口からポツポツと言葉が漏れる。
それを聞き、周りにいた少女たちも涙を流す。
優真の生還が絶望的であると、彼女達は覚ったのだ。
しかし、そんな少女達の耳に予想外な言葉が届いた。
天使クレエラに対して、キュロスはこう伝えた。
「私は彼との戦闘をもっと楽しみたくなった。よって彼が戦闘を諦めない限り、手は出さん」




