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優真の体力は未だに余裕がある。
麒麟の修行で鍛えた身体能力が活きているのだろう。しかし、その目には追い詰められたような様子を見せている。
手に持つ刀は、小刻みに震えている。
時間が1秒経つごとに、自分の死が近付いてきているような感覚。麒麟の創った空間と違い、ここで死ねば、生き返ることなんてあり得ない。
相変わらずの仏頂面で追い詰めてくるキュロスの目には、一部の隙もなく、どんなに速く動いても追い付かれ、様々な神器による多彩な攻撃が飛んでくる。
優真の刀も、キュロスの神器を斬ることは出来ても、キュロスに届くことはない。
「神槍ゲイボルグ」
再び、別の神器がキュロスの手に握られる。
そして、キュロスはそれを槍投げの要領で優真の方に向かって投げた。
その速さを見て、優真は槍を斬ろうとした。
しかし、急にゲイボルグは止まる。理由はわからない。ただ、優真が焦って手を出したことに間違いはない。
時間が何度も止まっていたことで、感覚が麻痺していた。
時間が止まったから、ゲイボルグが止まった訳ではない。
そして、直後に辛い言葉が目の前にタッチパネルの文章として現れる。
『槍に対しての攻撃を確認。【勇気】の使用をキャンセルします』
今まで、自分から攻撃する度に現れていた文章が、優真に絶望を与える。
優真の刀はゲイボルグの先端にギリギリのところで届かず、空を斬る。
そして、ゲイボルグは再び動きだし、動揺している優真のお腹を刺し貫いた。
◆ ◆ ◆
優真に突き刺さったゲイボルグは、優真の体を貫通して結界まで到達すると、塵となって消えた。
直径10センチ程度の穴。優真はよろめき、片膝をつく。口から吐血し、腹から流れる血と共に、優真の周りを真っ赤に染め上げていく。
トールハンマーによる不意打ち以降、初めてまともに入った攻撃。それに観客席は盛り上がっていく。
痛みに呻くだけで、優真は何もしない。キュロスもまた、優真の様子を見ている。
「~~ッグッ……!!?」
優真は痛みを我慢しながら立ち上がり、虚ろな眼でキュロスを正面から見る。
「この程度じゃ……俺は死なないっ!」
立ち上がった優真の体に、傷の類いはなかった。
はね上げた治癒能力で神速治療を行ったのだ。
優真は刀を握り、まだ諦めるつもりはないと、眼だけでキュロスに訴える。
しかし、突如優真を、虚無感が襲った。




