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キュロスの特殊能力【創造之王】は、神器を思うがままに造り出すことができ、また、神器を壊してその身に力を宿すことができる能力である。
ファミルアーテに所属している者、していた者に与えられた神器は当然のこと、彼は主神の怒りに触れないのであれば、どのような神器でも創造することが出来る。
無論、神器は持ち主を選ぶ。選ばれてこそ、最大の力を発揮する。
選ばれなければそれは、持ち主の責任。
使いこなせなくても、持ち主の責任。
だが、キュロスはその確固たる強さで、全ての神器をひれ伏せる。力を借りるのではなく、従わせることによって、神器の99%の力を引き出せる。
そして今、その力が優真に対して牙をむく。
優真はあえてトールハンマーを壊し、キュロスから出来る限り距離を取った。これにより、先程トールハンマーを壊したことで消えた【勇気】の発動条件を充たさせる。
だが、キュロス相手に間合いなどあってないようなものだった。
「双剣イカヅチ」
キュロスの手元に2本の短刀が現れる。
それは、先日の戦いで雷神の眷族筆頭が炎帝相手に使っていた双剣と似たような装飾が施されていた。
そして、双剣を構えたキュロスが一瞬で距離を詰める。
目で見えない速度。イカヅチが持つ『光速』の効果で、ただでさえ速いキュロスが、対応すら出来ない速度になる。
しかし、それに唯一対応出来るのが、優真の特殊能力だった。
優真はまるで見えていたかのように、鋭い2本の刃を避けてみせる。
「くっそ……聞いていた以上に厄介すぎる!」
優真は鋭い蹴りをキュロスに放つと、後方に下がったキュロスを見て、安堵のため息と共に口に出す。
特殊能力【勇気】が無ければ、とっくに塵芥と化していたであろう実力差。能力値が上がっても尚、相手の速度に追いつけない。ファミルアーテ第二位のパルシアスが、平常時の俺と同じ身体能力だという話だが、この状況を考えると信じられなくなる。
なにせ今の俺は【ブースト】で全能力値を1000倍にしているからだ。いつもなら、これで大抵は切り抜けてきた。だが、キュロスはそんな俺を圧倒する。【勇気】を使わなければいけない状況にまで追い詰めてきた。
「……こうなりゃ10000倍に賭けるしか無いんだが……どうして発動しないんだよ……」
先程から何度も何度も使いたいと願う力が出ない。それどころか、1000倍より先の力が出せない気しかしない。
なぜ使えないのかわからない。
麒麟様は、俺の体が10000倍の負荷に耐えられないから使えないのだろうと判断し、耐えられる体にしてくれた。
時間にして、1分程度の使用で2週間の昏睡状態。
それでも確かに、俺は一度、10000倍を体験している。
タイムリミットは残り5分……この時間内で勝つにはもう、その道しか残されてない。




