51-16
「ちょちょちょっ! ちょっと待ってください!」
優真の前に突如として現れた天使は、慌てて彼を止めようとする。優真も既に追い討ちをするつもりがないらしく、それをすんなり受け入れた。
「試合開始の鐘の音が鳴る前に手を出すのは反則です! いくら勝てないからって試合開始前に攻撃を仕掛けてはーー」
「まぁまぁ落ち着きなさいって」
優真の落ち着いた様子に、天使は疑問に思い、言い分を聞く姿勢を見せた。
「反則反則言うけど、そっちの眷族がやったことに比べればかわいいもんでしょ? ねぇ?」
優真の嫌みったらしい言葉に、キュロスは何も答えない。彼はただ、仏頂面で立ち上がるだけ。
「メイデンさんのお陰で2戦する必要はなくなったけどさ……それでお前の罪が消えた訳じゃない。だが、こっちも反則勝ちで最強に勝ったって、何も誇れない。そっちもそんな負けは嫌だろう?」
天使は優真とキュロスを交互に見るが、二人から放たれる威圧で震え上がっている。そんな彼女に目もくれず、優真はキュロスの目を見ながら、続けた。
「今の一発で女神様を殴ろうとしたお前の罪が消える訳じゃない。それでも俺は、お前とちゃんとした勝負がしたい。試合前に殴られたせいで負けたとか、それを負けた理由にしたくない。だから、今の一発で俺とお前は反則一つずつ。互いの眷族筆頭が喧嘩をしただけにしないか?」
優真は人差し指を一本立てながら、キュロスに対して救済策を提示した。
例えここで優真の提案を突っぱねても、反則をとられるのは先に手を出したキュロスのみ。
創造神が許しても、時空神と破壊神の二柱によって、罪を言い渡されるだろう。
だからこれは、優真のわがままだった。
戦わなくても勝利が掴める状況でありながら、相手にチャンスを与える。
ドルチェの頑張りも、メイデンの気遣いも、皆の応援を、相手の反則なんかで全てを無駄にさせるなど、優真の心が許さなかった。
「…………くッ……くくくっ、くははははははは!!」
黙って聞いていたキュロスが笑う。声を高らかにして笑う。
その様子に、天使は驚いたような表情を見せるが、彼はそれを意にも介さない。
「いいだろう! クレエラ、上に戻れ。条件を飲む。反則は互いに無しとして、試合を始める」
「よろしいのですか!?」
「構わぬ。元より私が不利な内容だ。向こうからそれでいいというのであれば、私が文句を言う道理がない」
そのキュロスの言葉に、クレエラは意見をすることが出来ず、諦めて上に戻っていった。




