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51-15


 担架で控え室に運ばれてきたメイデンの傍に、優真はいた。

 拳を握り、何も出来なかったことを嘆く優真の姿を見て、他の者達は声をかけられずにいた。

(俺が出ていれば、メイデンさんは傷つかずに……)

 そんなことを考えていた優真の拳に少女の手が置かれた。

「……ごめんなさい……時間……あんまり稼げなかった……」

 いつも以上に弱々しく吐かれたその言葉を聞いた瞬間、優真は自分が恥ずかしくなった。

 彼女は自分が全力を出せるように、時間を稼ごうとしていたことにようやく気付いたのだ。

 それなのに、過ぎたことで彼女の頑張りを無駄にしようとしている自分が恥ずかしいと思えた。

「……ありがとう、メイデンさん。メイデンさんの頑張りは、絶対に無駄にしない!」

 そう誓うと、メイデンは微笑みながら頷き、意識を失った。


 優真は立ち上がり、無言で通路の方に向かった。

 そして、心配そうに優真の後ろ姿を見つめる少女達に向かって、顔だけで振り返り、満面の笑みで言った。

「ちょっくら行ってくる」

 そこに決死の覚悟など見てとれない。だが、不思議と(みな)、安心出来た。

 先程の怒りに染まった表情よりも、死ぬかもしれないと思い悩み、それでもなお戦おうとしていた朝の顔よりも安心出来た。

 そして、優真は通路の先に消えた。


 ◆ ◆ ◆


 男は目を閉じて、相手を待っていた。

 彼女が選んだ眷族筆頭。その実力がどれ程のものか興味があった。

 しかし、先程軽く殴った一撃でその男は気絶した。

 正直、がっかりと言わざるをえないが、『女帝』と『処刑人形』があの男についたことに興味が沸いた。

 いったいどこにそんな魅力があるのか……ここで確かめるのもありだと思えた。


「……来たか……」

 目をうっすらと開き、通路の方にキュロスは視線を向けた。そして、彼は優真の姿を見た瞬間、口元に小さく笑みを見せた。

「少しは楽しませてくれるんだろうな?」

 そう問いかけた瞬間、目の前にいた優真の姿が消える。

 そして次の瞬間、優真の拳が目の前まで迫っており、キュロスは片手でそれを、呆気なく受け止めてみせた。

「……これはいったいなんの真ーー!!?」

 キュロスの腹部に優真の左こぶしが突き刺さる。その威力は、【ブースト】による効果ではね上がっており、キュロスは後方に吹き飛ばされてしまった。

 その行為は反則ではあったものの、たった一つの衝撃を作り出した。

 キュロスが対戦相手を前にして背中を地面につける。

 それは、この長い年月において、誰にも成し遂げることの出来なかった事実である。

 そして、優真は拳を収め、倒れたままのキュロスに吐き捨てる。

「これで俺を殴った分はチャラにしてやるよ」


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