51-12
「つ~かま~えた」
メイデンの体をディジェンヌが大きな肉体で包み込む。
傍目からは抱擁しているような光景だが、実際はそんな生易しいものではない。
早く離れなければ、メイデンも先程の神器同様、体をへし折られてしまう。
「そのまま絞め殺せ!」
「殺っちゃってください、姐さ~ん!」
メイデンの意識が遠退きそうになる最中、観客席の眷族達が囃し立て、メイデンを殺せと言ってくる。
「相変わらず人望無いわね~」
力を強めながら、吐血するメイデンに話しかけるディジェンヌ。
「……別に……そんなの……いらない……」
彼女はそう言うと、何かに気付いたのか、急に通路の方へと顔を向けた。
そこには一人の男が立っていた。
「もういい、メイデンさん!!! これ以上俺なんかの為に無茶するな!!!」
その声は、観客席で発生している殺せコールよりも小さな声だったが、確かにメイデンの耳には届いた。
「それ以上戦ったらメイデンさんが……っ! そんなの俺は望んでないぞ! お前も一緒に居ないとなんの意味も無いんだよっ!!!」
涙を流しながら訴えかけてくる優真の姿が、薄れていく視界の中に映り、メイデンは目を閉じながら微笑む。
「……私は……人望なんて……いらない! だって……欲しいものはもう……手に入った!」
その瞬間、メイデンの抵抗力が増す。
「……おも……ちゃばこ……かい……ほう……」
息苦しそうにメイデンがそう言うと、どこからともなくアイアンメイデンが二つ、フィールドに降り立つ。
そして、メイデンの背後にあったアイアンメイデンから鎖が伸び、ディジェンヌを襲おうとする。
それは、そのままメイデンにくっついたままでは回避出来ないであろう一撃だった。
ディジェンヌは悔しそうな表情を見せ、メイデンを手放し、大きく後方に下がる。
そして、メイデンがアイアンメイデンに取り込まれる一部始終を見ていた。
「またさっきのね……でもっ! 2度目は無いわよ!」
最初の行動でどういう仕組みか理解したディジェンヌは、後方にあったアイアンメイデンを絞め壊す。
そして、ディジェンヌは自慢気に振り向く。
そこには、地面に倒れたメイデンの姿があった。
予想通り、他のアイアンメイデンを壊せば、どこへも移動出来ない。
ディジェンヌは勝ち誇ったような表情になる。
そして、次の瞬間、ディジェンヌは驚くべきものを目にした。
うつ伏せになって倒れていたメイデンが口許に笑みを見せたのだ。




