51-11
しかし、メイデンは一つだけ勘違いしていた。
優真は怒りという衝動に任せて二人抜きを実行しようとしていた訳ではない。
先程、キュロスに襲われた際、一瞬だけ【勇気】が発動した。それは、子どもが襲われたと、優真の体が認識したということに他ならない。
キュロスの動きは一瞬だったが止まり、優真の体はもう一つの特殊能力を無意識に発動させ、一時的に瞬発力をはね上げた。
結果的にそれで助けることは出来たが、今の優真には時間制限があった。
受けたダメージも、【ブースト】によって、無意識のうちに完治している。だからこそ、時間稼ぎで1分1秒が経過するごとに、優真の勝てる可能性は少しずつ減っていってるのだった。
残り時間は気絶した間を含めて残り45分。
その間に、優真はキュロスを倒さなくてはならないのだ。
それが出来なければ、優真の敗北は確定的だろう。
だが、それを理解している優真は、メイデンを急かそうとはしなかった。
その一番の理由は、ディジェンヌという男が強すぎるからだ。
眷族筆頭のみがなれるファミルアーテ。
彼が眷族筆頭であったならば、そのファミルアーテの上位入りは確実と言われている。
それ程の実力者相手に、焦って事を仕損じれば、最悪な結果になることは目に見えていた。
「……残り40分くらいか……」
優真は控え室に設けられた時計を確認して、そう呟いた。
◆ ◆ ◆
「【銀の薔薇】」
メイデンはその特殊能力を巧みに使い、ディジェンヌを近付けないようにしていた。
それは、ディジェンヌの怪力を警戒した結果に他ならず、先程のようなアイアンメイデンを使用した脱出方法は、二度も通じないであろうとわかったうえでの行動だった。
真顔で戦っているように思えるメイデンだったが、最早、優真の為に時間稼ぎをしようと考えることも出来ないほど、必死に戦っていた。
彼女の息が荒くなる。
近付けてはいけない。その考えが、メイデンの神経をすり減らしていく。
絶対に抜け道を作ってはいけない。
その考えからか、彼女は裁きの十字架を併用している。
二つの特殊能力の同時使用。慣れた者でも何分間も続ければ限界はくる。ましてや彼女は、今の今まで能力の過剰使用によって昏睡状態だったのだ。
そして、限界とは唐突に訪れる。
「……っ!!?」
無表情だったはずのメイデンが衝撃を受けたような顔になり、口許を押さえた。
そこから滴り落ちる赤い雫。
時間を引き延ばす為に、労力を割いたのも原因の一つだろう。そして、メイデンが使っていた特殊能力は既に跡形もなく消え去っていた。




