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「……なぁ女神様? 俺は女神様を庇って殴られたんだが、キュロスのとった行動はルール違反だよな? 確か神に手を出してはならなかったはずだ……」
その言葉の真意がわからず、女神は首を傾げる。
「……まぁ、確かにルール違反だけど……」
女神がそう答えた瞬間、優真は小さく笑った。
その笑みに、彼の主神である子どもを司る女神だけではなく、その場にいた全員が嫌な予感を覚えた。
「なら、ちょっと行ってくるわ」
そう言って、優真は通路へと向かった。しかし、優真が向かった先は、フィールドへの通路ではなく、外に通ずる通路であった。
「ちょっと待ってくれ! いったい何処に行くっていうんだ!」
その言葉で、優真は立ち止まる。いや、正確には動けなくなったという言葉の方が正しいのだろう。
女神は彼の主神として、優真に回答することを命令した。
彼女の眷族の優真に、その回答に答えず行動するという選択肢はない。唯一それに答えない方法があるとすれば、眷族という立場を自ら捨てることくらいだが、優真にそのつもりはなかった。
だから優真は、静かな怒りを宿した漆黒の瞳を女神へと向けた。
「中堅戦、大将戦に連続して俺が出ることを、創造神チームの奴らを脅してでも飲ませる」
その言葉に全員が息を飲んだ。
その内容は常軌を逸していた。
そもそもやること自体が不可能なのだが、優真はそれを相手の違反を条件に飲ませようとしているのだ。
創世神であり、神々ですら崇める創造神相手に脅そうという行動もそうだが、何よりも、創造神の眷族相手に連戦しようという考えそのものが普段の優真と異なる状態だと思った。
しかし、止めようにも、優真から発せられる威圧的なオーラに声を出せない。
命令の効果も切れ、優真は再び歩を前に進めようとしていた。
確かに、ここにいる全員が敵に怒りの感情を覚えた。
試合前に襲撃し、仲間を瀕死の状態に陥らせたのだ。ここにいる誰もが、冷静ではなかった。
ドルチェが殺されかけるという悲惨な光景を見て、シェスカが気を失ったくらいだ。
他の者達も精神が揺さぶられる程の衝撃を受けていた。
それでもなお、正気を保っていられたのは、優真が尋常ではない怒りを見せたからだ。
『今、彼を止めないと、取り返しのつかないことになる』
全員がそう思ったものの、優真に声をかけることは難しく、ただ、遠ざかっていく背中を見守ることしかできないのかと思えた。
しかし、次の瞬間ーー
「私が出る」
張りのない声が控え室全体に聞こえ、立ち止まった優真の正面に、一人の少女が現れる。
それは、メイド服姿の銀髪少女だった。




