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(……ここは……どこだ?)
暗い空間にいることに気付いた優真は、そんなことを思う。
(……自分はさっきまで確かに控え室に居て……そうだよ! キュロスがいきなり女神様を殴って……それで無我夢中で動いたらここに……)
ようやく自分の現状を理解した優真は思い出す。
キュロスが来たのは準決勝先鋒戦の5分前だったことを。
その事実は無視できるような項目ではない。優真は急いで自分に起きるよう暗示をかける。
そして、暗い空間に一閃の光が射し、そこから空間が光を帯びていく。
目を覚ました優真の視界にはこちらではなく別の方向に視線を向け、唖然としているシルヴィの姿が映った。
「ゆ……ユーマさん!? 目を覚まされたんですね!?」
こちらに気付いたシルヴィの言葉に、優真は何も答えず、時間を確認した。
優真は10分程気絶しており、既に試合が始まって5分の時間が経っていた。
そして、次に画面を確認すれば、既にフィールドの結界が解かれていた。
「……優真……ドルチェちゃんが……」
涙声の万里華が上半身だけを起こして青ざめた優真の背中に声をかける。
その声で優真も振り返り、言葉を失った。
優真の視界に入る深紅の液体。それが控え室の床に広がっている。
そして、その液体の中心地には横たわる青髪の少女。
体のあちこちから血を流しており、意識はない。
その側では、手を光らせたミハエラが必死の形相で命を繋ぎ止めようとしていた。
その光景を見た優真が感じた感情は、悲しみでもなく、驚きでもない。
血が煮えたぎる程の怒り。その状況を造り出した相手、そして、無力にも今の今まで意識を失っていた自分への憎悪。
それが優真の心を蝕んでいく。
「くそっ!!」
優真は拳を握りしめ、床に叩きつけた。
その音に、ミハエラ以外の全員が優真に視線を向ける。
怒りで歪んだ顔は、見た者に恐怖を与える。それは、普段の優しい彼とは別人のようだった。
「……落ち着くんだ、優真君」
哀しそうな表情を見せながら、女神は優真の肩に手を置いた。それを優真は乱暴に払いのけ、立ち上がった。
しかし、優真は乱暴な声を発そうとした瞬間、何かを閃いたような顔になって、出そうとしていた言葉を飲み込んだ。
そして、もう一度倒れているドルチェを見て、何かを覚悟したような顔を見せた。
そして彼は、冷静に口を開く。




