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「……本当にいいのかい?」
優真の前を歩くエメラルドグリーンの長髪をたなびかせた少女が振り返らずに優真へと質問する。
「……そんなこと聞いたって俺の答えは変わりませんよ。俺は望む未来の為に全力を尽くすって決めたんです。ドルチェに力を貸してもらわないといけないってのが情けないですが……それでもやらなくちゃいけないんです」
そう言いながら、優真は隣を歩くドルチェの頭を撫でる。そして、撫でられたドルチェは、優真の方に満面の笑みを向け、優真もそれにつられて笑顔になる。
女神の為に戦っているのだとは一言も優真は発さなかった。
それは、優真がミハエラと約束したからという理由もあったが、それだけではない。
女神の未来を守るだとか、自分のせいで死んだ少女を生き返らせるとか、それを理由に戦いたくはなかった。
それは負けて死んだ時の理由になる可能性があるからだ。
自分の望む未来、また皆で笑いあい、楽しく過ごすいつもの日常、子ども達と遊び、そして大切な人達と共に歩む……そんな幸せな日常。
それを得る為に、死ぬ程の修行を受けてきた。
だからこそ、自分が死んだ理由を他人のせいにしたくない。
優真は、そう思っていた。
「……優真君……」
女神は顔だけで優真を見た。その時、優真の視界に哀しそうな眼差しが映る。それはまるで、自分を心の内で責めているかのような悲壮感だけが漂っていた。
「……もし……もしもだよ……死ぬかもしれないって時はさっさと逃げてくれよ? 私は優秀な人間を自分の我が儘で死なせるバカな真似はしたくないんだ……」
「それは命令ですか?」
優真のその言葉を聞いた瞬間、前方を歩いていた女神が立ち止まる。それに合わせて、全員の足が止まる。
そして、女神は振り返り、優真の顔を見上げる。
「違う。これは私からのお願いだよ」
その真剣な眼差しを見た優真は、その予想外な言葉に目を見開くも、彼女の眼差しに宿る覚悟をことで「そうですか」と目を伏せて答えた。
そして、再び歩き始めた子どもを司る女神を先頭に、優真達はスタジアムの控え室へと向かった。




