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檜で造られた風呂にお湯がたっぷりと張られている。
それを見てぶるぶると震える一糸纏わぬ裸体の猫耳少女。
同じく服を脱ぎ捨てたシェスカは、わ~い、と両手を上げながらお風呂に飛び込んだ。
水しぶきを上げると、猫耳少女は顔を真っ青にしながら、飛び退いてぎりぎりで避ける。
「大丈夫?」
シェスカが心配してそう声をかけると、猫耳少女は首をぶんぶんと勢いよく横に振った。
「これね、お風呂って言って、入るとすっごく綺麗になるんだよ! だからね、怖くないよ」
邪気を一切纏っていない笑顔を向けられると、猫耳少女はなんとも嫌とは言い難い空気を感じた。
未だに震えながらも、おずおずとお風呂に近付き、張ってある水にその細い指をちょんちょんと慎重につける。
冷たくはなかった。
温かい水だった。
水浴びが大好きな獣人の中でも、好みは存在する。
海に落とされたことがトラウマになって以来、冷たい水が苦手だった彼女にとって、それは久しぶりの安心できる水だった。
猫耳少女はその痩せ細った体をお湯の中に入れる。
「ふにゃ~」
気持ちが良かった。何年ぶりだろう。こんなに安らげる空間に身を置いたのは。
「気持ちいい?」
その言葉をかけられて、猫耳少女は我にかえる。
つい、気持ちよくなって警戒を怠ってしまった。
どんなに優しい奴だって人間である限り欲はある。
赤の他人だろうが信用はしちゃいけない。
もう、裏切られた時のあんな顔は見たくない。
あの人間から逃げるのはおそらく不可能だから、今は従っているだけ。
……なのに、そのはずなのに、目の前にいるこの子を見ていると、この子相手にそう考えるのが馬鹿らしくなってくる。
同族にも仲のいい子はいなかった。
僕は特別だから、皆とは仲良くなれなかった。
家族も決して、僕を同等とは見てくれなかった。
それでも僕はあの場所が好きだったし、帰りたいと切に思う。
猫耳少女は、いきなりシェスカに抱きついた。
びっくりしたとでも言いたげな顔になったシェスカの耳に猫耳少女が囁いてきた。
「僕はね、……その、と……友達ができたことないんだ。だ……だから、僕と友達になってくれないか! ……本当は、駄目なんだけど。で……でも、あなたなら信用できるから、出来れば、な……仲良くなってくれたら、う……嬉しいです」
「いいよ~! 私シェスカ! お姉さんの名前は?」
シェスカは恥ずかしそうに話す猫耳少女の願いに即答した。
それがよく考えて答えたものではないのだろうが、猫耳少女にとってはとても嬉しいことだった。
「ファ……ファルナ、です。よ……よろしくね、シェスカ」
「うん! ファルナお姉さん!」




