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「き……聞き間違いでしょうか? 今……キュロス様相手に勝つと……」
「ええ、俺に出来ることはそれくらいでしょうしね」
その時見せた優真の表情には、一切の嘘が見られなかった。
「ほ……本気でキュロス様に勝つおつもりなのですか?」
「もちろん。最初から負けるかもしれないって挑んでたら、いざ相手の強さに魅入られた時に絶対勝てなくなりますもん。だいたい最初から優勝目指してるんですから早かれ遅かれキュロスってやつに当たるとは思ってましたし……それに、俺は一人で戦ってる訳じゃないですから」
「ですが……それでも勝てるとは……いえそもそも、先程私の望みには応えられないと……」
「いやだって、俺が例え勝っても女神様が神で居られるかどうかなんて知らないですし、それを決める権利も俺にはないでしょう? だから、ミハエラさんが望む最良の結果は得られない。それでも、俺にも出来ることはある!」
そう確信めいたように言い放った優真の言葉に、ミハエラは何も言い返せない。そして、優真は、椅子が倒れる程の勢いで立ち上がった。
「だいたい俺があいつに勝てないなんてそんなの誰が決めたんです? まだ戦ってすらいないのに? 確かに! 今日会った時も、あいつの戦いを見た時も、正直勝てないって思いましたよ! 俺の方が弱いんだって思い知らされましたよ! でもね! ヒーローは守るべき者が背中にいる時といない時では出せる力が全然違うんです! 例え相手がどんなに強い相手でも絶対に負けないんです! だから俺は、明日、ヒーローになってみせますよ!」
そう言った優真は、圧倒されて何も喋れなくなったミハエラに、明日に備えて自分は早く寝る旨を伝え、部屋から退室した。
閉ざされた扉の奥から遠くへと離れていく足音がミハエラの耳に届く。数秒後には静かな空間に戻り、呆けた表情を見せていたミハエラは椅子に座り、小さく笑った。
「ふふっ……ヒーロー……ですか……。足が震えるほどの恐怖を抱きながら、それでも尚、啖呵をきって自分を鼓舞してみせますか……」
そして、ミハエラは席から立ち上がり、部屋の扉についたのぶに手をかける。
「……では、ヒーローが十全の力を発揮する為に、私ももう少し頑張るとしましょう」
そう呟いたミハエラは、力を使いすぎて休めていた体に鞭打って、ある一室に向かって歩き始めた。




