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優真はなんて答えればいいのか迷っていた。
今聞いた内容が嘘か真か本当のところはわからない。でも、不思議と嘘には思えなかった。
これが女神本人の口から伝えられた話であれば、信じられたかわからない。だが、ミハエラは今まで優真達や子どもを司る女神に対して、いつも真摯に接し、自分達の足りないところを補ってきた。
どんなに無理な要求であろうと、どんなに困った時であろうと、その手を差し伸べてくれた。
そんな彼女が、自分のことではなく、自分の主のことで、深々と頭を下げている。
たった一人の不幸な少女の為に、初めて自分の望みを伝えてきた。
「……俺には……多分どうすることも出来ません……」
ようやく口を開いた優真の言葉に、ミハエラが僅かに反応する。
「……子どもを司る女神様と創造神様を仲直りさせることも、創造神様に意見することも、創造神様の意見を変えさせることも出来ないでしょう」
ミハエラの握られた拳に力が入り、悔しそうな表情を見せる。
彼女はわかっていたのだ。
ファミルアーテ不動の1位という肩書きはそんな簡単にどうにかなるものではない。キュロスは1度も対戦相手を前にして、膝をつけたことは無いのだ。
世界最強と名高く、そして、他の神々からも称賛されるからこそ、創造神によって神へと昇華されようとしているのだ。
そんな相手に、眷族となって1年足らずの元人間が勝てる確率など万に一つもない。
土台が違う。年期が違う。経験や技術、身体能力、与えられた特殊能力、その全てにおいて優真はキュロスの足下にも及ばない。
それがわかっていて、死すらもあり得る……いや、死しか待っていないであろう戦場に自ら行こうなんて、する筈がない。
「……だから、ミハエラさんの望みには応えられません」
(…………でしょうね……)
彼を責めることは出来ない。何故なら、彼は自分達が勝手に巻き込んだ人間なのだからーー
「だって、ここでキュロスってやつに勝っても、優勝にはならないでしょう?」
その言葉を聞いた瞬間、ミハエラは信じられないものでも見たかのような表情を優真に向けていた。




