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「落ち着いて、顔怖いよ」
万里華に肩を軽く叩かれると、ハナさんは正気に戻った様子だった。
すると、二人のやり取りを見ていた女神様が口を開く。
「安心してくれ……っていうのは変かもしれないけど、彼らには創世神の三柱がちゃんと警告しているんだ。今度相手を殺した場合、問答無用でその試合を敗北とし、地獄行きにさせるってね」
「……参加不可にしたりはしないんですか?」
「確かにやり過ぎだったけど、創世神の三柱に、その意思はないみたいだ」
シルヴィの質問に女神様がそう答えると、ハナは悔しそうに唇をきゅっと結ぶ。
沈鬱な空気が流れるなか、優真がアイテムボックスから取り出した弁当を皆で食べ始める。
ハナの怒る理由を知っているだけに、適当な慰めは出来ない。その為、シェスカ以外は黙って受け取った食事を食べる。
いつもは明るい雰囲気で取る食事がこの時ばかりは楽しくなかった。
そんな空気に耐えかねた優真は、雰囲気を変える為に、何か話を切り出そうと思った。
「そういえばさぁ……さっき弁当買いに行ってる時にさ~創造神様の眷族筆頭とぶつかったんだよね~」
「えっ大丈夫だった!?」
驚いた様子の万里華がそう訊くと、優真も笑顔を向ける。
「それが呆気なく弾き飛ばされちゃってさ~怪我は無いけどなんか負けた気分になったわ~」
心配そうに見てくる万里華を見て、優真は冗談でも言うかのように笑ってみせる。
しかし、隣のシェスカの口許をハンカチで拭っているシルヴィは見てしまった。先程まで美味しそうに弁当を食べていた女神が深刻そうな表情をしているのだ。
それはまるで何かに怯えているかのようにも見えた。
そして、優真がこの言葉を告げる。
「俺にはあの方は相応しくないとか言ってどっかに消えちゃったんだよね~」
その瞬間、女神は顔を真っ青にして勢いよく立ち上がる。
それに、万里華の方へと顔を向けていた優真も気付く。
「どうかしたか?」
「ごめんけど……やっぱり本拠でラノベでも読んでるよ」
その声は先程までとは別人かのように、掠れていた。
「……大丈夫か? 顔真っ青だぞ? それに炎の男神様の試合が気になってたんじゃ」
「大丈夫だから!!!」
その怒気をはらんだ声に、全員がびくつく。そして、その大声に驚いたシェスカが泣きだし、近くにいたシルヴィが慌てて宥める。
普段、あまり泣かないシェスカが恐怖を感じるほど、先程の女神には迫力があった。
女神も、シェスカを泣かせてしまったことで冷静を取り戻し、シェスカの頭を撫でようとするが、シェスカに手を払われてしまう。
手を払われた瞬間、女神は傷ついた表情を見せる。
それを見たシルヴィは慌てて彼女に謝った。
しかし、女神はシルヴィに大丈夫だと言い張り、皆の護衛は頼んだよと言って、スタジアムから出ていった。




