50-3
(さっきのはいったいなんだったんだ?)
俺はシルヴィと共に皆のもとへと戻る道中、先程の出来事を思い出していた。
俺の見間違いでなければ、キュロスという男は、俺にわざとぶつかってきたようにも見えた。露骨という程ではないが、どちらにしろ、避けれなかった俺にも多少の責任はあるだろうし、これ以上シルヴィに格好悪いところを見せたくなかったから、普通に謝ったのだが、……あの仏頂面は、俺の方を品定めするような視線しか俺に向けていなかった。
訳がわからない。いくら、次の対戦相手とはいえ、下級神の眷族筆頭相手にそんなことをする意味があるのだろうか?
う~む……理解に苦しむ。
「おっ、ようやく帰ってきたね~」
考え事をしながら歩いていると、エメラルドグリーンの長髪を万里華に結いでもらっている女神様がこちらに声をかけてきた。
「……あれ? 本拠でだらだらしてるんじゃなかったの?」
「いや~その筈だったんだけどね~ミハエラが全然構ってくれないから暇で暇で~」
「そうかい」
女神様の言葉に、一応は納得しておきながら、自分の席に座る。
現在、ミハエラさんにはファルナについていてもらっている。カリュアドスさんとの戦闘で大きなダメージを負ったファルナは、ミハエラさんとイアロの治療が功を奏し、急死に一生を得た。ただ、その後意識は戻ることなく、現在も昏睡状態。一応、怪我の治療は一晩で終えたものの、目を離せない状態にある。
そんなわけで、ミハエラさんはファルナの看病、一晩中頑張ってくれたイアロも気力を使い果たし、心配で一晩中起きてたドルチェと共に睡眠中なのであった。
「まぁ、それだけが理由じゃないんだけどね~」
「……というと?」
皆に買ってきた食事を配る為にアイテムボックスを開いていると、女神様が意味深なことを言い始めた。
「次の対戦……準準決勝4回戦はさすがに見逃せないよね……」
その言葉にハナさんの耳が微かに反応した。
「これまでの対戦相手をほぼ全員焼き殺してきた彼らが雷の男神様の眷族達相手にどう戦うのか……気にならない方がおかしいと思うよ……」
その話を聞いた瞬間、いつも陽気なハナさんがこれまで見たことの無いような表情をしていた。それは、相手を度しがたい程憎んでいる表情だと感じた。




