49-18
バラドゥーマの拳がパルシアスに向けて放たれる。
優真のものとは比較にならない程洗練されたその一撃は、まともに受ければ例えパルシアスでもただではすまないだろう。
しかし、パルシアスはその攻撃が来るのを知っていたかのように軽々と避けてしまう。対するバラドゥーマも、それがわかっていたかのように、流れるような動きで追撃を行う。
当然、その威力は眷族の中でもトップクラスのものと言えた。そんな威力の攻撃を、トップクラスのスピードで放つ。
それを回避するのは、並々ならぬ精神力が必要だろう。
当たれば即死級の一撃。にもかかわらず、向けられているパルシアスはどこか楽しそうだった。
創世神の一角、破壊を司る男神の眷族筆頭を任せられたバラドゥーマという男は、純粋な身体能力だけで言うなら、トップクラスの実力者だ。
攻撃力、防御力、瞬発力、治癒能力の4点においては、キュロス、四神に次ぐ3位の実力者であり、その他の項目に関しては、キュロスに次ぐ内容だった。
それだけではない。
彼は、元人間だった。
何千年も前の話。当時、圧倒的な力を持ちながら、それでも尚、強さを求めた男。その身一つで闘い続け、人々から『拳聖』と呼ばれるようになった世界最強の人間。
だが、破壊神を魅了したのはそんな理由ではない。
彼が破壊神の課した課題を達成してみせたからだ。
人間でそれを達成できたのは数千年経った今でも彼一人だけだ。
彼は、人間の身で眷族筆頭と真っ正面から闘い、長き死闘の末、勝利をもぎ取ったのだ。
その闘いに心打たれた破壊神は、死にかけていた彼の身に力を与えた。
そして、更なる力を手に入れたバラドゥーマは、それでも尚、満足しなかった。
『上には上がいる』
人間では知ることの出来なかった高みが存在する。だからこそ、彼はあらゆる手段を使って、心技体を高めた。
だからこそ、彼は許せない。
へらへらと適当に生きているにもかかわらず、その高みにいるパルシアスという男の存在が。




