49-17
「相変わらずだね~バラドゥーマは」
並々ならない殺気を向けられながら、それでも尚、パルシアスはその余裕を崩したりはしない。
「黙れ。俺の前でその口を開くんじゃねぇ……お前やあのガキ見てるとイライラすんだよ……」
「知ってるよ。君は嫌いだもんね~努力や死ぬ気を見せない僕の戦い方……でもね……」
一瞬だった。パルシアスの雰囲気がバラドゥーマの表情に微かな動揺を浮かべさせ、パルシアスは続きの言葉を紡いだ。
「強い方が強いんだよ」
その時見せたパルシアスの愉しそうな笑みは、いつもと異なり、異様な恐怖を見る者にもたらした。
そして、その恐怖に支配された時間がどれ程経ったかは、わからない。唯一わかったのは、試合開始の鐘の音が鳴るまで、ほとんどの者が恐怖で硬直していた。
◆ ◆ ◆
パルシアスの覇気があれ程のものだったとは知らなかった。
「……なるほどね、俺は手加減されてた訳か……」
そう思うと、どこか寂しく感じるが、それも当然だと思った。あの時はただの試験で、今は本気の試合。むしろ、お互いに特殊能力が使えないという状況において、本気だと感じる方がアホらしい。
「いやいや、ユウタンが戦ってた時のパル君は結構本気で戦ってたと思うよ?」
その言葉は、万里華の隣に座っていたハナさんがくれたものだった。
「……そうなの? でも今の方が明らかに……」
「そりゃそうだよ」
フィールド上でバラドゥーマの攻撃を避けまくっている様子を見て、俺は彼女の言葉に疑問を抱く。
「パル君はそもそも肉弾戦が得意じゃないからね~……てか、パル君がバラドゥーマと特殊能力魔法無しの勝負したら瞬殺されるレベルだし~まぁ、それでも普通の眷族からしたら化け物にしか見えないレベルなんだけどね~」
「……なるほど……要するに、あいつの身体能力は俺とどっこいどっこいで、あっちも全力を出してた。今回、あいつから感じる覇気が桁違いなのは、特殊能力と魔法が解禁になって本気が出せるからこそって訳ね」
「そういうこと~……まぁ、わかってるとは思うけど、全力を出せるようになったパル君は、昨日のメイデンより圧倒的に強いからね……今のユウタンなら、ボッコボコにされちゃうよ」
その忠告は軽い口調で放たれたものだったが、とても冗談には思えないものだった。
だが、彼女は今の俺と言った。
要するに、本気の俺なら少なくとも勝負になるということだろう。元とはいえ、ファミルアーテ第3位の座にいた彼女からの評価が落ち込みかけていた俺には心の底から嬉しいものだった。




