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左右の逃げ道を確認しようとするとそこにも人が立ち塞がっていた。
見覚えのある眼帯の男が、手に鞭を持って近付いてくる。
「い……嫌! こ……来ないで!」
その鞭を見て怯え始める少女を見て、眼帯の男は恍惚な笑みを浮かべる。
「いつ見てもいいもんだ。ガキの怯える顔とその声は……実に素晴らしい! もっと見せろ! もっと聞かせろ! さぁ、お仕置きの時間だ!!」
眼帯の男はその棒状の鞭で少女を叩こうとした。
しかし、そこに少女の姿はなかった。
「……ねぇ……なんでもう絡まれてんの? さっき酷い目にあったんだからこんな路地裏に入り込んだら駄目じゃないか」
「……えっ?」
目を閉じた訳でもない。
まばたきをした訳でもない。
ましてや目を反らした訳でもない。
それなのに、自分はいつの間にか先程の黒い髪の男に抱えられていた。
「なんだ!? いったい何が起こった!! どうして神獣族のガキが消えてやがる!」
「親方っ! いつの間にか後ろにいやす!」
「は……はぁ? お前らちゃんと守らねぇで何やってやがった」
そう言って報告してきた部下を眼帯の男は鞭で何度も叩く。
腫れ上がった顔を血で真っ赤に染め、倒れてしまった男。その男を苛立ちが表情に出ている眼帯の男は蹴り飛ばす。
その光景を見ていたシェスカが怯えているのが背中ごしに伝わってくる。
「安心しろ。俺がついてる」
その言葉で、シェスカの怯えきった表情が徐々にやわらいでいった。
「ちっ、どうやったかは知らねぇが、さっさとそのガキを取り戻せ!」
眼帯の男がそう命令すると、男たちはそれぞれ自分の得物を取り出し、優真に向けて構え始めた。
「あ……言い忘れてたけど、次逃げたら、俺もう君助けないからね? 絶対この場から動かないでね」
優真は猫耳少女に向かってそう言うと、シェスカを少女の隣に下ろし、腰に携えた刀を抜く。
「あっ、最初に言っておくけど、殺しはしないから安心してね」
優真が親切心で言った言葉は、武器を構える男たちの顔を真っ赤にした。




