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「……いたたぁ……パルシアスの奴め……もうちょい優しく扱ってくれたってよかろうに……」
尻を擦りながら不満そうな表情で愚痴を吐く少女は立ち上がりながら、億劫そうに上空を眺める。そこには、多くのカプセル状の観客席が浮かんでおり、半球状の結界がその間に出来ていた。
「まぁよいか……みかんジュースはまた後でユウマに買ってもらえばよいしのぅ」
そう言って、エパルは自分の方に目を向けている男に視界を移した。
そこに立っていた男は、明らかに苛ついていた。
「遅い!! 中堅戦が始まるギリギリに来るなど言語道断!! 眷族ならば10分前行動を心掛けるべきであろう!!」
額の筋をひくつかせ、怒鳴るように言ってくる彼の言葉は、エパルが耳を手で塞いでも聞こえてくる。
「しかも貴様! 神聖なフィールドに通路も通らず上空から飛んでテレポートで着地するなど……いったい何を考えておる!! 恥を知れ!!!」
「そうかっかするでない。別に遅れた訳ではないのだし……もう少し……」
「その考えが怠惰を生むのだ! 創世神の眷族として我々は常に他の眷族達の模範にならねばならない! 少しくらいなどと言って自分を擁護するような考えは全て捨てよ!! 我々に怠惰は許されない! 我々に自由などは不要だ! 神の名の下に秩序と規範を遵守し、神の為に動く。それが我々の使命である!! それが出来ぬと言うのであれば、我輩が直々に貴様を教育してやろう!!!」
その真っ直ぐに向けられた赤色の瞳を見た瞬間、エパルは溜め息を吐く。
「……まったく、妾は他人にああしろこうしろと言われるのは嫌いなのじゃ……じゃが、共感出来る部分も無いわけじゃあ無い……『神の為に動く』その一点においては妾も否定はせぬ。よって、妾は女神様の名の下に、勝てと言う命令を遂行させてもらうとするかのぅ……」
エパルはその男に対して不敵な笑みを向ける。だがすぐに、彼女は振り返り、所定の位置に向かった。
そして、二人の間に暫しの沈黙が訪れる。
流れる時間は、見る者に一瞬、あるいは長き時を感じさせる。そして、その時間は誰に憚られるもなく、鐘の音と共に訪れた。




