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黒煙が晴れ、そこに立っていた女性の姿を見て、トキネは恐怖を感じた。
彼女は一切の傷を負っていなかったのだ。
「いや~さすがに今のはびっくりしたな~! プラウドの奴なら間違いなくぶっ飛ばされてただろうな~!!」
首を鳴らしながら堂々と近付いてくるその女性の姿を見て、トキネは今すぐ立たなくてはと思った。だが、地面にうつ伏せの状態で倒れている彼女は、その目を見てしまった。
その目に宿る力が、彼女の心を圧迫していく。
手が震え、足が震え、呼吸困難になるほど、動悸が早くなる。
小型とはいえ、核爆弾を至近距離で受けて無傷。そんな化け物相手に自分が勝てる筈がない。
どう足掻いても勝てない。いや、それどころか殺されるかもしれない。
無傷とはいえ、殺傷能力の高い爆弾で攻撃したのだ。殺されてもおかしくない。前の試合で雨の神の眷族筆頭を殺した時と同じように、頭蓋骨を砕かれ、見るも無惨な姿となって殺されるかもしれない。
彼女はそう思ってしまった。
「……耐えられなくなったか……」
ユウキは目の前で涙を流しながら気絶した女性を見て、そう呟いた。その瞬間、フィールドに設けられた結界が解かれていった。
◆ ◆ ◆
パルシアスは目の前に運ばれてきた女性の頬を軽く叩く。しかし、彼女は文句を言うことも、動くこともない。目は虚空を見つめ、うわ言を呟き続けている。
「あらあら、これは治るまで時間かかりそうね~」
誰にも気配を覚らせず、パルシアスの隣までやって来た女神に、パルシアスは短く「そうですね」と答えた。
「……う~ん……見ただけだから確かなことは言えないのだけれど、おそらく明日の試合は無理そうね」
「やはりトキネでは『恐怖を与える者』には勝てませんでしたね。彼女の特殊能力【精神破壊】は、所有者の魔眼から常に精神的攻撃を与え続けるもの。それに耐えられなくなった時、または相手を敵わない存在だと認識してしまった時に心を壊される能力……本当に厄介な能力ですよ……一応、絶対に目は見るなって言っといたんですが……」
「しょうがないわよ。トキネちゃんはこっちの世界に来てまだ10年ちょっとしかないんだから……ここまで全勝してくれただけ御の字よ。明日の試合には別の子を用意しましょう。……さて、と……パルシアス、エパル……」
その声に、用意されていたソファーで行儀悪く座りながらルービックキューブで遊んでいる少女が反応する。
そして、パルシアスとエパルの視界に入った女神の雰囲気は先程とはまるで別人のようだった。
そして、ぴりつく雰囲気の中で、女神は口を開く。
「勝ちなさい。これは命令です」
その言葉に、二人は口角を吊り上げ、愉しそうな笑みを見せた。




