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「おいおい、本当に恩知らずな子どもだな……」
駆けていく猫耳少女の後ろ姿を見ながら、優真はそう呟いた。
猫耳少女は意外と速かった。
あんだけ食ったから元気でも出たのか全速力だし…………もう、……ほっとくか?
「あのお姉さん泣いてたね~」
「……そうだな」
「ほっとくの?」
「そうだな~……でも、もうすぐ夕方になっちゃうし、これ以上ここにいると今日中に村へ帰れないんだけどな~」
「シェスカお泊まりだ~い好き!」
「…………あはは…………まじか……」
これは遠回しに助けろって言われてるよね?
……でもまぁ、変態男から助けたり、飯食わせたりといろいろしてあげたんだしーー
「もふもふするくらいの権利はあってもいいよな?」
俺はその言葉に首をかしげたシェスカを背負うと、その足に力を込めた。
「……そういえばまだ1時間経ってないんだったな。じゃあ、鬼ごっこを始めようか!」
◆ ◆ ◆
「こ……ここまで来れば……もう大丈夫かな?」
肩で息を切らしながら、少女は壁に寄りかかってそう呟いた。
全速力で逃げた。強くても、所詮は人間。人間が神獣族の僕に追い付ける筈がない。
食料に釣られて、ついついていってしまったが、奴らと手口が一緒なのを思い出せてよかった。
猫耳少女は身を包むローブを強く握った。
(……優しそうな人だと思ったのにな…………結局は欲深い人間と同じーー)
自分を助けたのだって、信用を引き出すためにやったのなら、説明がつく。
人間なんか信用ならない。特に雄ほど信用ならないものはない。
どんなに優しくしてくれたって最後は裏切られるなら、もう……信用なんてできない。
「おいおい、やっと見つけたぜ~神獣族のお嬢ちゃん! 奴隷が勝手に逃げ出すなんて、まったくいけないな~」
裏路地の日が当たらない場所で蹲っているときだった。
不快な声が耳に届いてきて、身体が震えるのを感じた。
(……この声……まさか)
猫耳少女は恐る恐る顔を上げて、そこにいた男を見た。
多くの人間を率いていたその男は案の定、奴だった。




