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「ここです」
そう言われて案内された部屋には、『誰も入るな』と書かれた貼り紙が扉につけられていた。
「これ……本当に入っていいんですか?」
その貼り紙を指差しながら聞いてくる優真に、カリュアドスは真顔で頷く。
「昔からなんです。自分の手から眷族が放れた日は、いつもこうやって部屋に閉じ籠ってしまわれるんです。あのお方は大地の女神様を敬愛していますからね……自分の眷族達には親身に接してくださるのです。……その中でも特に、メイデン殿を可愛いがっておられたので、今回の件は相当心にきたのでしょう。……あまり人には言えませんが、あの方なりに責任を感じておられるのでしょう。自分の与えた特殊能力が原因で『処刑人』の役割を担わせてしまい、周りから冷たい視線を浴びせるようなことになった。創世神と下級神……立場の関係上、辞めさせることも出来ない。だからきっと、あの方はメイデン殿に幸せになってもらいたいのですよ……」
そう言って、カリュアドスは自分達の通ってきた道を引き返していった。それを優真は目で追うだけでついていこうとはしない。
誰もいなくなってしまった廊下で、深く深呼吸をし、部屋の戸をノックした。
「……鍵はかかってない」
部屋の中から聞こえてきた予想外な返しに、優真は戸惑いつつも、「失礼します」と言って、部屋の中に入った。
中に入ると、そこには下着姿の銀髪少女がソファーの上で自分の膝を抱えて丸くなっていた。
いつもの黒い衣装は乱雑に脱ぎ捨てられており、とても人を迎え入れていいような状態ではなかった。
「……なんで服着てないんです?」
優真はその惨状を見て、真っ先に浮かんだ疑問を投げ掛ける。
「……そんなことを聞きにわざわざやって来たのか? ……まぁいい、一応、客人を迎える訳だからな、裸で招き入れる訳にもいくまい……」
(いや、下着姿もどうかとは思うけどね……)
立ち上がって乱れた髪をてぐしで直す目の前の女神にそんなことを思いながら、とりあえずそこについては言及するのをやめた。
そして、目の前で億劫そうに脱ぎ捨てられていた服を着ている女神を見るのが申し訳なくなった優真は、とりあえず視線を外して、部屋の内装を見る。
壁には、本棚がところ狭しと並べられ、その中にはラノベや漫画が詰められていた。中には、優真自身が読んだことのあるものもあった。
「もうこっちを見ても大丈夫だよ」
そう言われてそちらを見ると、いつも通りの格好をした鉄の女神が立っていた。




