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1月7日の午後9時を過ぎたこの時間帯に、下級の神々が暮らす地区を、夜の空と同じくらい黒い髪の青年が歩いていた。
彼は手に持ったメモを頼りに、同じような光景の地区を歩き続け、ようやく目的地に着いた。
彼は目の前にそびえ立つ屋敷の扉につけられたノック用の金具を使ってノックした。すると、中の方から人が近付く気配を感じ、一歩下がる。それと同時に屋敷の扉が開けられ、天使とおぼしき女性が現れた。
「夜分遅くに申し訳ございません。私子どもを司る女神様の眷族筆頭を務めさせていただいております、雨宮優真と申す者です」
「存じております。して、そのようなお方がこの場に何用でございましょう?」
相手が相手だからか、彼女は丁寧に聞いてくるが、その表情からは、あまり歓迎されていないように見えた。
だが、優真自身、理由がいくつか思いあたる為、無視されないだけありがたいと思うことにした。
「本日は鉄を司る女神様にお目通り願えないかと思った次第で……」
「申し訳ございませんが、女神様はご気分が優れないご様子でして……日を改めていただいてもよろしいでしょうか?」
言葉を全て言いきる前に拒否。
優真もそれには、少しばかり目を見開いている。
一天使が、眷族相手に確認も取らずに拒否するということは本来あり得ないのだが、彼女の表情からは申し訳ないという感情が伝わってこない。
どうやら、女神自ら誰も通すなという指示を出しているようだ。
その反応に、出直すしかないかと思い、優真はその場を後にしようとするが、その旨を伝えようとした瞬間、彼女の奥から、無視できない存在感を発する何かがこちらに向かってきているのを感じ取った。
「どうしたのですか?」
その聞き覚えのある声に、優真の方へと顔を向けていた天使が振り向く。そこに立っていたのは、銀色の髪をオールバックにした男性だった。
「いえ……その……子どもを司る女神様の眷族筆頭様がお見えになっておりまして……」
「なるほど……」
そう呟いたカリュアドスは、考える仕草を見せる。そして、天使に伝える。
「それでは、貴女は来客用のお茶をご用意していただけますか?」
「え? ですが……」
「私はお茶を用意するよう貴女に頼んだのですよ。彼は私が呼んだのです。何か文句がおありで?」
「い……いえ、失礼いたしました!」
そう言った天使は急いで奥へと向かってしまった。
残されたのは、扉に手をかけて開けた状態にしている優真と、そんな優真にニコニコした表情を向けるカリュアドスのみ。
「俺……カリュアドスさんに呼ばれた覚えが無いんですけど……」
「そう言わねば追い出されるだけですよ。では、こちらへどうぞ」
中に招き入れられた優真は、そう言って部屋へ案内するカリュアドスの後に続いた。




